温泉で元気・小暮淳

温泉ライターが取材で拾った
ほっこり心が温まる湯浴み話

第12回
いい温泉は引き算

「いい温泉宿には露天風呂がない」
と言ったら、言い過ぎでしょうか?

実は、古湯と呼ばれる歴史ある温泉地へ行くと、
露天風呂のない旅館が少なくありません。
それは、湯を守る湯守(ゆもり)にとって、 露天風呂が
“いい湯を提供する”浴槽の理に適っていないからです。

夏には虫が飛び込み、秋には落ち葉が舞い落ち、
冬には砂ぼこりが入ります。
湯が汚れやすい露天風呂は、
湯守の立場からすれば厄介な存在なのです。

ただ厄介なだけなら、
まめに掃除をすれば済むことなのですが、
露天風呂の存在はそれだけではありません。
常に湯面が外気に触れている露天風呂は、
湯が冷めやすいという最大の欠点を抱えています。
ゆえに、源泉がかなりの高温でないかぎりは、
循環装置を使い、加温し続けなければなりません。
内風呂に比べて、経済的負担も大きいわけです。
加えて、野外ということで日光にさらされるため、
藻(も)が発生します。
藻が付着すると、レジオネラ菌が繁殖しやすいという
悪条件のおまけまで付いてしまうのです。

「こんなに湧出量があっても、露天風呂は造らないんですか?」
山あいの一軒宿の主人に、そんな質問をしたことがあります。
すると主人は、
「先祖から、湯には手を加えるな、
湯舟も大きくするな、と言われています。
1時間で浴槽内すべての湯が入れ替わるよう、
湧出量に見合った大きさを守っています」
と答えました。

ここの浴室には、シャワーもカランもありません。
洗い場がないのです。
「温泉は、体を洗う場所ではない」という先祖の言いつけを、
かたくなに守り続けていました。

あれもある、これもある、こんなサービスもあります、という
“足し算”をしてきたのが、現在の観光旅館の姿です。
でも、湯に自信がある湯守のいる宿は、
とことん無駄と不必要なものを省いた“引き算”をしています。

「その代わり、うちには極上の湯があるぜ!」
そんな頑固一徹なオヤジの
心の声が聞こえてきそうな温泉宿こそが、
私は、いい温泉だと思うのです。


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2012年1月7日(土)

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