温泉で元気・小暮淳

温泉ライターが取材で拾った
ほっこり心が温まる湯浴み話

第43回
熱くなけりゃ温泉じゃねえ

群馬県みなかみ町(旧・新治村)。
かつて三国街道の宿場町だった湯宿(ゆじゅく)温泉には、
たくさんの宿屋が軒を並べ、
旅人や湯治客でにぎわっていたといいます。
戦前までは20軒ほどあった宿屋も、現在では6軒の老舗旅館が
細々と湯を守りながら商いをつづける小さな温泉地です。

湯宿温泉は昔から湯量が豊富な温泉として知られ、
5本ある源泉は高温のため加温されることもなく、
どの旅館でもかけ流しのスタイルを守っています。

湯に恵まれた温泉地だけあり、
石畳がつづく温泉街には
4軒もの外湯(共同湯)があります。
天下の草津温泉ですら約170軒の宿に対して
外湯の数は18軒ですから、
もし外湯率というものがあるとすれば、
ここ湯宿温泉は群馬県一であり、
全国でもトップクラスの温泉地といえるでしょう。

なぜ小さな温泉地に外湯がこんなにもあるのかといえば、
温泉は地元住民の共有財産だからです。
現在でも、ほとんどの家に風呂がなく、
共同湯維持会に参加する約120戸の家でカギを所有して、
いつでも入浴ができるようになっています。
カギが開いていれば、誰でも自由に利用することができますが、
各湯には「善意の箱」が置かれているので、
地元民以外の人は維持管理費として
100円以上の謝恩金が必要です。

温泉街の入口から数えて3つ目の外湯「窪湯」の手前に、
黒塀と古木に囲まれた
湯宿温泉最古の旅館「湯本館」があります。
開湯は約1200年前と伝わり、同館に残る古文書には、
初代沼田城主の真田信之が関ヶ原の合戦の後、
戦の疲れを癒やすために訪れたことが記されています。
「たぶん、自分は21代目だと思います」
と現主人の岡田作太夫さん。
あまりにも歴史が古過ぎて「正確なことは分からない」と言います。

その先祖たちが守り継いできた源泉が、宿の裏庭に湧いています。
一見、池のようにも見えますが、小屋掛けされていて、
もうもうと湯けむりが立ちのぼっています。
泉温は約62度。
湧き出した源泉を敷地内の高低差を利用して、
冷ましながら浴槽へ流し入れていますが、
それでも加水をしていないため、かなり熱い湯です。
私は毎回、水道のホースを抱えて入っていますが、
地元の人たちは
「これが湯宿の湯だよ。熱くなけりゃ温泉じゃねぇ」
と言って、さっさと湯舟に入ってしまいます。

情けない話、私は何度も湯宿温泉を訪ねていますが、
湯本館の湯に限らず、外湯にしても、
水で薄めずに肩まで入れたためしがありません。


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2012年4月25日(水)

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