温泉で元気・小暮淳

温泉ライターが取材で拾った
ほっこり心が温まる湯浴み話

第50回
夕景の妙と月光浴

群馬県みなかみ町。
三峰山(みつみねやま)と大峰山(おおみねやま)に抱かれた
風光明媚な盆地を見下ろす高台に、
ぽつんと赤い屋根の小さな宿がたたずんでいます。

ここは全国でも美しい地名で知られる「月夜野(つきよの)」
平安の昔、京の歌人・源順(みなもとのしたごう)が
東国巡礼の途中にこの地を通り、三峰山から昇る月を見て
「よき月よのかな」と深く感銘し、
歌を詠んだのが由来と伝えられています。

残念なことに平成の大合併により、
その美しい町名は消えてしまいましたが、
ここに来れば温泉名にも宿名にも名前が残っています。
月夜野温泉「つきよの館」
私の大好きな癒やしの一軒宿です。

内風呂ながら全面ガラス張りの浴室からは、
南に子持山(こもちやま)から続くなだらかな尾根筋を望み、
正面に大峰山〜吾妻耶山(あづまやさん)へ連なる
雄大な景色が広がります。
眼下には青々とした棚田と、こんもりと生い繁る鎮守の杜。
なんとものどかな里山の風景に、心が和みます。
日がな一日、眺めていても飽きることがありません。

極めつけは、夕景の妙です。
レモン色だった太陽が、遠くの稜線に触れると
途端に空を染め出します。
鮮やかなオレンジ色に燃え上がる夕焼け美は、
一度見たら忘れられません。
やがて帳(とばり)が降りると、天空の主役は月に変わります。
まるで全天周映画の投影を観ているようです。

浴室の入口には、こんな張り紙があります。
「月の出ている夜は、浴室の電気を消して
月光浴をお楽しみください」

なんと粋な、はからいでしょう。
温泉地名にふさわしい、湯浴みの宿です。


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2012年5月19日(土)

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