|   第49回 
          消える自然湧出温泉 
        東京電力福島第一原発事故を受けて、 
          日本の電力を支える自然エネルギーとして 
          地熱発電への期待が高まっています。 
          火山の多い日本は、世界有数の地熱資源国。 
          また風力や太陽光のように天候に影響されない点も、 
          地熱発電が期待されている理由です。 
        地熱発電は、地中に井戸を掘って高温の蒸気を取り出し、 
          その蒸気によりタービンを回す仕組みです。 
          しかし資源の約8割は 
          開発が規制されている国立・国定公園の下にあるため、 
          これまで日本では、あまり活用されていませんでした。 
        そこで開発されたのが、 
          井戸を公園の外から斜めに掘る技術です。 
          これならば公園内にある資源でも、活用することができます。 
        しかし、これに警鐘を鳴らす人たちがいます。 
          群馬県温泉協会長の岡村興太郎氏は、平成24年1月発行の 
          「群馬県温泉協会誌」に次のようなコメントを寄せています。 
        <新規の温泉開発も掘削技術の進歩とともに、他の影響も加わり、 
          まず自然湧出の温泉は、温度・湧出量・含有成分等の減少を経て、 
          湧出が止まり、あるいは枯渇化に向かう傾向が多い。 
          温泉は未知の分野が多く、地下の構造や湧出構造の解明、 
          温泉のモニタリングが急がれるゆえんである。 
          また一度、地熱発電が開始されると、一定量の蒸気確保のために、 
          2〜5年に1本の割で還元井戸を掘削し続けることが解っている。 
          際限のない、無秩序な開発にならないよう、 
          最初から充分に検討されるべきである> 
        さらに氏は、明治25年に発刊された群馬県の温泉分析書 
          「上野鉱泉誌」に記載されている74ヶ所の温泉地に触れ、 
          <現存する温泉は30ヶ所余りとなっている。 
          昭和30年代以降の温泉掘削技術の進歩で、 
          昔ながらの自然湧出の温泉が消えてしまった> 
          と、これ以上温泉を掘削し続けることへ懸念を抱いています。 
        この120年の間に、群馬県内から 
          40ヶ所以上の自然湧出温泉が消えたことになります。 
          また、掘削による温泉は増えているものの、 
          県内の温泉の総湧出量は年々減少していることも事実です。 
          特に自然湧出温泉の湯量の減少は顕著で、 
          ピーク時の約30パーセントも減っています。 
        以上の数字を踏まえた上で、地熱発電の開発に限らず、 
          温泉の掘削という行為自体を見直してほしいものです。 
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