第二にドルに代るアジアに通用する通貨が直ちに出現する見込みはうすいが、EUの成り行き次第では、日本と中国が中心になってペッグ制が採用され、やがてそれをASとでもいった共通通貨にまで発展させることもないとはいえない。
しかし、そこまでいくためには、まだいくつもの難関があり、ドル取引でさんざんな目にあわされた末に、では円取引でいこうか、あるいは、人民元取引でいこうかというプロセスが見えてくるだろう。ドルに対する信仰は日本人より中国人の方が厚いので、国際貿易の決済で、ドル離れが起るまでにはまだまだ時間がかかるものと思われる。
第三にそういう次のステップに至る前に、アメリカ発世界通貨不安のなかで、それぞれの国が被害を最小限にとどめて、景気に梃子入れをし、国民にメシを食わせる最善の手立てをしなければならない。日本にしても、中国にしても対米貿易で大幅の黒宇をあげてきたが、アメリカのマーケットがあまり期待できないようになれば、他に自活の道を切りひらかなければならなくなる。そのために必要なことは第一にそれぞれの国内市場に目を向けることであり、第二にアジア全域で新しい市場開拓をすることであろう。
たとえば、日本でアメリカヘの輸出が激減したらたいへんなことになると考える人は多いが、日本のGDPの八五%から八八%が国内消費である。日本が不景気になったのは輸出が不振におちいったからではない。国内市場が不良債権の拡大と低金利による収人減で消費不足になってしまったからである。
日本の景気を戻そうと思えば、銀行の焦げつき債権を政府が肩代りすればよいし、消費の不足分を税法も含めてあらゆる奨励策を駆使して補えばよいのである。また対米輸出の減少分をアジアで市場開拓をして補ってあまりあるようにすればよいのである。
ただし、アジアで市場開拓するといっても、日本は既に資本と技術の輸出国になっているから、輸出は機械や設備や高度の技術を要する完成品に限られ、雑貨や家電などについてはむしろ輸入国である。そうした輸入品を生産するために日本の資本がアジア中に進出するのも当然この次の日本の重要な産業になる。
それに比べると、中国はWTOにも加盟していなかったので、通貨不安の影響を受けることは少なかったが、国際貿易の窓口になっている香港は株価も不動産も半分に下げ、甚大な被害を蒙った。対米輸出でもかなりの減少が起るとすれば、国内市場の開拓に重点をおくよりほかないだろう。貧乏な十二億を相手に何が売り込めるか、とあざ笑う人もあるけれども、昭和三十年代の日本がまさにそういう状態にあった。
それが高度成長によってヨーロッパのブランドメーカーからも世界最有望のマーケットと目されるようになったのだから、日本がかつてやったことと同じことをやればいいのである。日本の十倍も人口があるのだから、日本より潜在力の大きなマーケットといってよいだろう。
ただし、中国はまだおカネについてガリガリの段階にあるから、物から卒業したとはいえない。むしろこれから金銭万能がはじまるところであろう。それに比べると、日本は一度は物の頂上をきわめてから財産を失い、その空しさを味わっているところだから、カネのあとを追うことに万事節度を持つようになってくる。そういう生き方が身についてくれば、どんな苦境にも耐えていけるだろうと私は見ている。
(一九九八年十月九日執筆、『Voice』九九年一月号発表)
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