中国株、海外起業、海外投資、グルメ、ファッション、邱永漢の読めば読むほどトクするコラム

第2629回
成長株の紹介は社長さんの名前から

少し前までは、よほど関心がないと、
私は中国の会社や工場まで訪ねて行くことはありませんでした。
こちらも時間のかかることだし、
相手も迷惑なことだと思っていたからです。
しかし、ふりかえって考えて見ると、
株のことを考えるのに、
会社訪問からはじめたのは私が最初でした。
それまでは経済記者が株のことを書くのに、
いちいち社長にきいたり、
生産現場に行く人なんかいなかったのです。

もう50年近くなりますが、
名古屋のNHKから講演を頼まれた時、
「何か私たちにできることありませんか」
と支社長さんからきかれたので、
「日本陶器の工場を見たいのですが、ご案内いただけますか」
とお願いしたら、
「おやすいご用です」
と支社長さんが先頭に立って
則武町にある本社に連れて行ってくれました。
文士が工場を訪問するのはよほど珍しいことだと見えて
すぐに貴賓室に通されて、
貴賓名簿にサインをさせられました。
私が
「小説家の方でこちらにお見えになった方がありますか」
ときいたら
「ええ、吉川英治先生がお見えになったことがございます。
でもそれは戦前のことです」
と返事がかえってきたことがあります。

私が株の話をするのに
いちいち会社や工場に行くようになったのは、
私が一流会社ではなくて、
まだ世間に知られていない
成長株に目をつけるようになってからです。
人の知らない企業を紹介する時は
社長がどんな人であるかも紹介しなければなりません。
パイオニアの会社を訪ねて行った時は
まだ掘立小屋のような小さな新しい工場の前に創業者が立っていて
「ハイ、私が社長の松本望でございます」
とピョコリと頭を下げました。
「以前はどんなお仕事をやっていたのですか」
ときいたら
「ハイ、牧師をやっておりました。」
それがまだスピーカーをつくりはじめたばかりの
パイオニアの社長さんだったのです。
あの頃の成長株は
いまいずれも日本の代表的な大会社になりましたので、
もう私の方も出番がなくなってしまったのです。


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2007年5月22日(火)

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