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         第4104回 
          税金の話でどうやって読者を? 
        昭和39年の私は歌謡曲の作詞をしながら、 
          不景気が続いたら、 
          皆が一番関心を持つようになるのは何だろうかと考えていました。 
          景気がよくて金儲けのチャンスの多い時は 
          誰でも金儲けに熱中します。 
          でも景気が悪くなって金儲けが難しくなると、 
          「汗水垂らしてやっと稼いだお金の半分も 
          税金にとられるのはあんまりだ」 
          と誰でも考えるのではないでしょうか。 
        たまたま私は台湾でも香港でも税金を払ったことがあるので、 
          日本の税金がうんと高いのにびっくりする立場にありました。 
          みんなの給料が1万円の時に、 
          私はその10倍も収入がありましたので、 
          梅崎春生さんのいわゆる「快適な200万円」というエッセイの 
          ほんの一部分を味わわせてもらいましたが、 
          株の世界に踏み込んで 
          実業界のトップの人たちとつきあいがあるようになって見ると、 
          日本の国税が酷税であることがだんだんわかってきました。 
        何しろ当時の所得税の最高税率は93%で 
          日本で納税額1位になった松下幸之助さんは 
          10億円の収入に対して約9億円も税金にとられて、 
          手元に残ったのがたった1億円と報道されていました。 
          記者が松下さんに感想をきいたら 
          「9億円の税金を国に払ったと言うよりも、 
          お国のために10億円稼いでくれたので、 
          ご褒美に1億円いただいた感じです」 
          と新聞で報道されておりました。 
        こんな調子でしたから、不景気になったら 
          「税金をどうにかできないものか」と考える人がふえるに違いない。 
          私は国税庁につとめているわけでもないし、 
          税理士を職業としている者でもありませんが、 
          日本の税金がどんな仕組みになっているか研究してみたいと考えて、 
          本屋に行くと目についた税金の本を片っ端しから買い込んで、 
          自分なりに読みふけっていたのです。 
          ですから「何か書きたいことありますか」ときかれて 
          「税金です」と答えたら、 
          連載の依頼にこられた日経の部長さんは、 
          「まさか、あんな面白くない物で 
          どうやって読者をひきつけることができるんですか。 
          いくら邱先生でも」 
          と首を横にふられてしまいました。 
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