元週刊ポスト編集長・関根進さんの
読んだら生きる勇気がわいてくる「健康患者学」のすすめ

第1543回
読書の秋!「いのちの本」10選 (4)

いま、発売中の「いのちの手帖」第2号の
「本の愉しみ」欄に収載した、
秋の夜長にじっくり読むと楽しい、
いのちの本・10選の話の続きです。

           *

●“虫の知らせ”や“正夢”の深奥を知る
「共時性(シンクロニシティ)の宇宙観」
(湯浅泰雄・著 人文書院 )2100円

医学のみならず、身体と精神の繋がりを見る
ホリスティックな発想を理解する上で、
心理学者・ユングの「共時性=synchronicity」
は欠かせない理論。
「“虫の知らせ”や“正夢”、
遠く離れた人と考えが一致する現象」などを指すが、
ユングは物心二元論に基づく近代科学の限界に気づき、
共時性を「偶然の一致」ではなく「意味ある必然」とし、
個人的無意識と集合的無意識の2層があると仮定した。
いかがわしい神秘思想として扱われがちな
東洋の気や易経の「大宇宙と小宇宙の発想」と連動させて、
本書は分かりやすく解説している。

●これまた秋の夜長の熟読書
「手の五〇〇万年史」
(フランク・ウィルソン著 藤野邦夫・古賀祥子訳 新評論)3675円
他の哺乳類と違って人類(ホモサピエンス)が
卓越した英知を勝ち得て進化してきたのは、
「脳」だけでなく、「手」の進化によるものだ――、
という相関をホモサピエンス以前の500万年の
「手の変遷」から忠実に調べた雄大なる翻訳書。
随所に、「手のミステリー」といった興味深い例証もちりばめられ、
「手話」や「右利き、左利き」の検証、
脳が「右脳、左脳」に分化して進化する話などがじつに面白い。
430ページの大著だけに読み込むには
ちょっと時間の余裕を必要とするが、
おざなりな健康書や医学書にあきあきした向きにはおすすめ。

●絶望を希望に変える長編小説
「神聖家族」
(山口泉・著 河出書房新社)2625円

この小説もじっくりと読むべき一冊。
山口泉さんの一連の作品は
全体まるごとを「絶望を希望に変える」――
いのちの連邦、魂の共和国、つまり、
ホリスティック・ワールドに構築してしまうパワーを秘めている。
女主人公が、失明、盲目、暗闇という絶望の中から掴み取っていく
「人間同士の新しい結びつき」、
その「心眼」の境地と、
微かな「希望」を描き切っているところが秀作。
こうした長編小説は手ごわいなあと思う人は、
著者の「オーロラ交響曲の冬 」(河出書房新社 1029円)など、
大人の童話作品を読んでみて欲しい。

          *

さて、この回で紹介した、最後の3冊は、
ちょっと読みこなすには時間がかかる本ですから、
読む場合は、それなりの覚悟でのぞみましょう。
ここに紹介した解説を頭に叩き込んで読み進むと、
途中で挫折しないで、充実感を愉しむことが出来るはずです。
さらに「いのちの手帖」第2号の収載した、
この10冊の中には、
すでに巷の本屋に並んでいないものもありますから、
インターネット通販のアマゾンなどで
新古本を探しだすのも妙味です。

ちなみに、最後に紹介した、作家・山口泉さんは、
同じ号の「いのちの手帖」に
「いのちの美術館〜盲目の画家の血判」という
5ページのエッセイを書いておられます。
晩年にして両眼を失った長谷川沼田居という
稀有な画家の生涯をたどる、
まさに、人間のいのちの深奥を描いた秀作です。


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2006年11月17日(金)

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