元週刊ポスト編集長・関根進さんの
読んだら生きる勇気がわいてくる「健康患者学」のすすめ

第1765回
なぜ「乳がん検診」を外科医がやるのか?

話題書「患者漂流―もうあなたは病気になれない」
の著者・中野次郎医師が、
最近、ある医療雑誌のエッセイで指摘している
「日本のガン治療システムは遅れている」
「病院と医師のチームワークが欠如してる」
という、日本のガン治療の現実的な問題提起の話の続きです。

たとえば、政府のガン治療・基本計画案の要項のひとつに
「乳がんや大腸がんで現在20%前後の検診受診率を
5年以内に50%以上にする」というお題目がありますが、
その検診率の数値を高めようと掛け声をかける前に、
「乳がん検診」の方法、そのものに、
日本のガン治療の後進性が潜んでいるというのです。

ある女性を診察して、
左乳房の外側上部に直径1.5のしこりを発見。
早速、マンモグラフィー
(レントゲン撮影による乳房がん検診)をすすめた
ときのエピソードが綴られています。

「私は病院の放射線科に 
彼女がマンモグラフィーが受けられるように頼んだ。
すると放射線医から驚くべきことを知らされた。
マンモグラフィーによる乳がんの判断は
外科医によってなされているという。
米国では経験ある放射線医が映像で乳がんを診断していたが、
その後、診断ミスが問題になり、研修を受け、
認定試験に合格しなければ
マンモグラフィー診断ができなくなった。
日本ではマンモグラフィーの研修を受けていない外科医に
なぜこの重要な診断を任せるのか理解できない」というのです。

さらに、米国と比べて
日本のガン治療のおかしさを指摘しています。
「それからしばらくして(略)、
彼女がご主人とともの私の所に来た。
『先生のおかげで乳がんが見つかり、
外科医に乳房を全部切り取ってもらいました』
『乳房を全部切り取ったの!』と私は驚きの声をあげました。
外科医は患者の同意を得ずに
根治的乳房摘出術を施したのであった。
その外科医は、彼女のために
マンモグラフィーの検査の申請書を書いた主治医である私に、
その結果のみならず治療プランも知らせずに
根治的乳房摘出術を志向したのである。
このようにチーム治療ではなく単独で手術した彼の方法に、
途上国より遅れている日本のがん診断、
治療制度の未熟さを痛感せざるを得なかった」

乳がんのマンモグラフィー検査については、
産婦人科の医師が実施することの批判が
新聞記事になったこともありましたが、
日本のガン治療の問題点の根本は、
なにがなんでも「外科医が治療する」
=外科至上主義にあるのではないか?

ちなみに、このエッセイで、中野医師は、
米国の病院でのガン治療の仕組みについて図解もしています。
“ガン治療の基本は「患者と主治医」が中心で、
その回りに、外科医はもちろん、
放射線専門医、放射線治療専門医、
また化学療法専門医、そしてガン専門看護師が配されて、
それぞれの治療分野を分担し、
全体のチームワークで治療が果たされる“――、
この仕組みこそが、
客観的かつ倫理的に確度の高い治療制度だというわけです。

ガン治療改革の最大の問題点は“外科至上主義にあり”
“病院スタッフのチームワーク欠如にあり”
という実態に即した指摘です。
「そのために、日本の患者は間違った診断をされている」
というのです。

先進国、いや途上国よりも遅れた
日本の「外科至上主義・医療システム」に目をつぶって、
はたして、根本的な医療改革はできるのか?
患者本位の対応ができるのか?
役人の作った絵空事のようなガン対策計画案では、
とてもとても、人間らしい治療、
患者に即した治療体制はできない・・・
長年、ガンとガン治療システムと
付き合ってきた患者の一人としては、
ガン対策計画案のお題目を提示されても、
なかなか信用ができないのです。
あなたはどう考えますか?


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2007年6月27日(水)

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