元週刊ポスト編集長・関根進さんの
読んだら生きる勇気がわいてくる「健康患者学」のすすめ

第1924回
冬休みに必読の一冊(2)

先日、いま話題の新・保守派の論客・佐藤優さんと、
ジャーナリスト界の重鎮・竹村健一さんの
ちょっと読み応えのある対談本
「国家と人生」(太陽企画出版)という新刊が送られてきた――、
タイトルどおり、「国家」論が、
読者ひとり一人の「人生」観に結び付けられて、
じつにスムーズに読んでいけるのが特徴だ――、

この本には、次の時代を読み解くキーワードが
玉手箱のように詰まっていますが、そのひとつに「ケミストリー」
という言葉が出てきます。
直訳すれば「化学」ですが、
本来の使われ方は「化学反応」、いや「触発」という意味。
読めばきっと頭脳だけでなく、
身・魂・心が全体が振るえるように、
「ケミストリー」されはずだ――という話の続きです。

政治、外交、経済、社会の裏話や国家構造論だけでなく、
佐藤さんも竹村さんも若き日に
キリスト教の影響をたっぷりと受けているためでしょう。
僕は、この本が「国家論」でありながら
個々の魂に迫るスピリチャルな臭いがするのが気に入っています。
それが、
この対談を身近な読み物にしているのではないかとも思います。

佐藤さんの話にはユニークな神学者やロシアの思想家など、
一般書では気軽に読めない人物の話が登場し、
民族性や宗教性、
そして国際関係論までが興味深く語られているので、
僕は、いつもそこを楽しみに読んでいるわけです。

第3章の「知識と情報の蓄積が知恵になる」の中で、
竹村さんが「ロシアの新興宗教」の話を持ち出すと
佐藤さんが「ロシア正教」の勢力は根強いとして、
「十九世紀終わりから二〇世紀初めに
『モスクワのソクラテス』といわれた
ニコライ・フョードロフという謎の思想家がいるのです」
と話すくだりがありますが、
僕はこのあたりがとても面白い。
「フョードロフは科学技術が発達して
生物学や物理学の境界線がなくなると
死んだ人を復活させることが可能になると考えた。
たったいま亡くなったばかりの人間から
アダムとイブまで全員復活させることができる。
しかし死者が全員甦ると土地が足りなくなる。
だから他の惑星に移動しなければならないと考え、
宇宙開発を始めたのです」

いやー、とても痛快で面白い話だと思いませんか?
じつは、僕は、たまたま3ヶ月ほど前に、
フョードロフの復活思想について
東大大学院でロシア文学やドストエフスキーを教えている
安岡治子准教授から話を聞いたばかりでしたので、
いささか、このシンクロニシティにびっくりしたんです。

あとで安岡さんが送ってくれた
「シンフォニック・リーチノスチ――
ユーラシア主義に見られる全一的理想社会の探求」
(岩波講座・文学)
という論文集を読むと、なるほど、なるほど、
フョードロフのような発想の源が、
やはりロシア正教というか
「神人協働思想」が根付いているようなのです。
ロシアの思想は、ただ自然を神とする
「汎神論(pantheism)」ではなく、
万物に神の力が現われるとする、
いわば「汎在神論(panentheism)」に近いかも知れない。
シンフォニック・リーチノスチ、
つまり世界全体の精神的統一を
有機的に志向するものと定義されていました。

別に、僕はロシアの専門家ではありませんので
詳しく述べる立場にいませんが、
新刊「国家と人生」では
[古い先入観で物事を見てはいけない]という、
例証としてフョードロフも取り上げられているのだと思います。
たとえば、これからの時代、
英語圏そして中国語圏のものだけでなく、
お隣のロシア語圏の情報も思想も歴史も宗教も知らないと
日本の国家論も、個人の人生論も語れなくなるなあ・・・
「国家と人生」を読むとそうした目からウロコの
「触発」を受けることは間違いなしです。
これからは,「全体と個の調和」を考える
ホリスティックな時代なのでしょう。


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2007年12月3日(月)

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