第76回
組織ケーエイ学29:スロービジネス。

イタリアではじまった「スローフード」の運動は、もはや一時的なブームではなく、今後もながくつづくトレンドになったといえる。これは「ファーストフード」の対極的な考え方で、質のよい食事のために、もっと手間ヒマをかけようという主張である。
ちょうど、世の中のマクドナルドとコンビニの役割が大きすぎることに辟易してもいただろうし、食の大切さはみな実感しているだろうから、この考え方には説得力があった。

ここからスローライフという言葉もでき、食べ物のみならず、生き方・暮らしかたについての哲学ともなっている。もうすこしゆっくり生きよう。環境と調和したより人間らしい生き方をしようと、田舎に引っ越してみたくなったりする都会人の価値観、というか「お疲れさん」的な合い言葉みたいな感じもある。

そんなスローなライフスタイルに、ちょうど適合しそうな組織のカタチに、NPOがある。といっても単純なボランティアのみならず収益事業もできる。法人にもでき、いまでは起業の一形態として、NPOという選択肢があるわけだ。

ぼくのときは、有限会社しか思い浮かばなかったけれど、なんとか社会の中で居場所をつくり自分に給料を払うことが、会社をつくった目的だった。成長とか利益とか考えもしなかったのだから、NPOでもよかったかもしれない。

ぼくらの社会では、明らかに付加価値を生む仕事であっても、利益を悪いものとしてとらえる傾向が根深く残っているので、事業によっては、NPOの方が展開しやすいことがあるように思う。仲介ビジネスなどは、NPO向きかもしれない。
役所の仕事を、一部NPOに発注する動きも現実に出てきているようだが、運用がどうなるか。半分ボランティアと軽んじられて、値切られなければいいが。

さてスローとは、ふつう「スローダウン」を意味し、経済成長とは逆方向にある。人は報酬だけで働くわけではないけれども、やはり少しずつ給料が上がるということは、人生にとって必要だ。そのことが置き去りにならないか。
また消費者(受益者)の立場では、NPOだから品質が下がっていいとは思わないだろうし、経済性とサービス品質の両立を、利益を追わないという建前で実現できるものかどうか。
これらがもしできるならば、かなりスゴイことになる、と思う。


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