弁護士・高島秀行さんの
読んだらわかる訴訟の話

第85回
証人尋問での証言は

普通、人と話すときは、
質問をした人に対して答えます。
ところが、証人尋問では、横から自分
あるいは相手の弁護士が質問し、
答えは、質問をした弁護士でなく、
正面にいる裁判官に向かって話をします。
証人尋問は、判決を書く裁判官に
話をわかってもらうための手続きだからです。

それから、質問に対して答えるということが重要です。
証人尋問は限られた時間の中で、
必要なこと、重要なことを話して
裁判官に理解してもらわなければなりません。
必要のないことの話で
あまり時間を使いたくありません。

弁護士は、必要のないことは簡単に、
重要なところは細かく聞こうとします。
それなのに、尋問を受けるみなさんが、
簡単に済まそうと思うところで、
長々と証言をしてしまうと、
重要な点について話す機会がなくなってしまいます。
 
そのために、前回話したように、
事前の打ち合わせをするわけです。

基本的には、「はい」「いいえ」「何々です」
と簡潔に答えるのがベストです。

余計なことを話さないことが、
不利なことを話さないことにもつながるし、
相手の弁護士や裁判官から突っ込まれずに済むからです。

例えば、
「あなたはAさんに会ったことはありますか?」
という質問を受けた場合には、
あったことがあれば単に
「はい」とだけ答えればよいのです。
すると、弁護士は必要があれば、
「いつですか?」「何度くらいですか?」
「どうして会うこととなったのですか」と聞いてきます。

ところが、実際の尋問で同じ
「Aさんにあったことがありますか」
という質問をしてみると、
「そう言えば、あれは暑かったから
 3年前の夏ごろだと思いますが、
 私の職場の上司のBさんがAさんと知り合いで、
 Bさんからの紹介で、
 私の会社とAさんの会社が取引を始めるようになり、
 担当者である私は何度も会っており、
 最初はうまく行っていましたが、
 Aさんの会社とのトラブルになり、
 最近は会っていません。」と、
質問されたことだけではなくAさんとの関係を
全部証言してしまうということがあります。

これは、先ほど言ったように
時間的に無駄になるかもしれませんし、
相手がAさんとの関係について
あまり知らないかもしれないのに、
相手に、Aさんとの関係は3年前からあって
一時は何度も会う関係だったけれども、
最近はトラブルが原因で
会っていないという情報を与えてしまいます。

すると、3年間の取引関係やトラブルについて、
相手に突っ込まれて、
こちらに不利な事情がさらに出てきてしまったりします。

だから、質問をよく聞いて、
聞かれたことに簡潔に答えるというのが
証人尋問では大切なのです。


←前回記事へ 2004年6月29日(火) 次回記事へ→
過去記事へ
ホーム
最新記事へ