弁護士・高島秀行さんの
読んだらわかる訴訟の話

第86回
「裁判長、異議あり!」

ドラマのシーンで、証人尋問をしていると、
相手の弁護士の証人尋問
(ドラマでは刑事裁判が多いので
 検察官の尋問の場合も多いです)に対し
「異議あり!」と尋問を遮る場面があります。

これに対し、裁判官が
異議を認めるか、認めないかの判断をし、
「異議を認めます。質問を変えてください」
あるいは「異議を却下します。」と言っているのを
見たことがある方もいるかもしれません。

この異議は、相手の尋問が違法だと言っているのです。
尋問だからといって、
何をどんな風に聞いてもよいというわけではありません。

次の尋問は違法とされています。
このような尋問を相手がしたときに
「異議あり!」というわけです。

(1)証人を侮辱する、あるいは困惑させる尋問

(2)誘導尋問
   例えば、
   「あなたが○月○日に相手に承諾書を送って欲しい
   と言ったところ、相手が×月×日に、署名捺印して、
   送ってきたのですね」というように、
   尋問する方で全部証言内容を言ってしまう尋問です。
   尋問する側で全部内容を言ってしまっては、
   証人に証言させる意味はありません。

(3)誤導尋問
   名前は誘導尋問と似ていますが、
   誤導尋問は、誤った事実を前提に尋問していくことです。
   質問の前提が誤っているのだから、
   それを前提にしている証言も
   誤りということになってしまいます。

(4)重複尋問
   同じことを繰り返して質問することを許すと、
   いつまでも尋問が終わりません。

(5)関連性のない質問
   裁判に関連性のない質問は証言しても意味がありません。

(6)意見を求める尋問
   証人は、争いある事実の有無を判断するために
   経験した事実について証言するのであって、
   意見を求めても仕方がありません。
   判断するのは裁判官で、
   特殊な点について意見を求めるのであれば、
   それは専門家の鑑定ということになります。

(7)仮定の尋問
   経験しない仮定の尋問をしても、
   裁判で問題となっている事実の有無を
   判断する材料にはなりません。

このように、裁判で争点となっている事実が
あったかなかったかを
裁判官が判断するために必要のない尋問は、
違法で許されません。
証人尋問は、証人の責任を追及する場ではなく、
事実の有無の判断材料を証言してもらう場だからです。

ただ、実際は、相手がひどい尋問をしていても、
そういうひどい尋問に対しても耐えたということは
こちらが真実を述べ、
誠実に答えているという印象を与える場合もあるので、
いちいち異議を出さずに、
相手に尋問を続けさせることも多いです。

逆に、相手の尋問に
証人が精神的にカーッとなってしまいそうな場合、
証人に落ち着いてもらうために、
こちらから戦略的に異議を出して、
一息入れてもらうこともあります。


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