弁護士・高島秀行さんが紹介する
事前に備える賢い法律利用方法

第263回
年金問題で全ての人を救済することはできない

前回、年金払込者不明問題で、
元帳を廃棄してしまったのだから、
誰が支払ったのかを調査して確定する作業は、
事実上不可能だという話をしました。
それでは、救済のために、証拠がなくても、
過去年金保険料を払っていたという人には、
全て年金を支払ってあげましょう
という救済策はどうでしょうか?

これなら、年金を払っていたにもかかわらず、
未納扱いされている人は全て救済されることになります。
しかし、今度は、
年金保険料を支払っていないにもかかわらず、
年金保険料を支払ったと言って、
年金を受け取ろうとする人が出てくるはずです。
国会やマスコミは、
このような国民に悪い人がいる
という前提で議論はしにくいものですが、
以前、牛肉偽装問題で、
小売店が牛肉購入代金を返還するといったところ、
牛肉の購入金額以上に払戻しの希望があったじゃないですか。
だから、年金を払ったと主張する人全員に対し、
無条件に年金を支払ったこととするわけには行きません。

とすると、年金を払ったと主張する人に、
いつどのように払ったかをある程度主張し、
領収書でなくても、
何らかの証拠を提出してもらう必要があります。
しかし、通常、領収書以外に、
払ったことに有力な証拠はないので、
領収書も、社会保険庁の元帳もない状態では、
払ったこととするのは、
証拠がなくても認めることと同じになってしまいます。

例えば、会社に勤務していたことを証明しても、
その会社がその人の分を払っていたことを証明しなければ、
年金保険料が払われていたのかは証明できないからです。
だからと言って、何らかの証拠を出せと言えば、
証拠が出せないと年金保険料を払っても
年金を受け取れないこととなってしまいます。
このように、社会保険庁が
年金保険料の支払者を全て確定できたかを確認せずに、
元帳を廃棄してしまったことは、
救済できない、解決できない問題を生じさせてしまったのです。

それにもかかわらず、
参議院選挙前だからといって、
年金保険料支払者が調査すればわかるかのような幻想や、
年金保険料支を払ったにもかかわらず
未納となっている人を
証拠がなくても救済できる可能性があるかのような幻想を前提に
国会で議論され、
法案も強行採決により衆議院を通過してしまいました。
こんな議論で成立した対策に、
使われるお金は、国民からの年金保険料や税金です。





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2007年6月7日(木)

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