弁護士・高島秀行さんが紹介する
事前に備える賢い法律利用方法

第262回
年金払込者不明問題は解決不能

社会保険庁を巡って、
国が年金保険料を受け取っておきながら、
5000万件もの保険料が誰の保険料かがわからない
という問題が発生しました。
この問題は、参議院選挙の前だということもあって、
与野党で激しく議論され、
マスコミにも取り上げられており、
しかも、その対策が危ない方向に行きそうなので、
このコラムで取り上げようとしたところ、
救済法案が、衆議院を通過してしまいました。

この問題で、与党ばかりでなく、
野党やマスコミも、国に国民が保険料を支払ったにもかかわらず、
誰が払ったかわからず、
年金を受け取れないという大変な問題なためか、
そんなことあってはならないから、
何とか救済しろという方向への議論になっています。
残念ながら、このケースでは、
年金を払った人を全て救済することはできません。

なぜなら、誰が、いついくら支払った
という証拠となる元帳を社会保険庁が廃棄してしまったからです。
元帳がないのに、誰が払ったかを
どういう調査をして払込者を確認するのでしょう。
現在及び過去に年金保険料を払っている人の支払い記録を確認し、
年金が未納扱いされている期間がある人全員に
聴き取り調査でもするのでしょうか?

そんなことは無理だと思いますが、
その全員に対して聴き取り調査などをする費用は
どうやって捻出するのでしょうか?
社会保険庁の職員が行うとすると、
通常業務ができなくなりますし、
残業や休日出勤をして調査させるとすれば、
その残業代や休日出勤手当てを
年金保険料から捻出することとなってしまいます。
そうすると、ただでさえ、
年金原資が足りないという話しなのに、
年金原資がかなり減ってしまいます。

じゃあ、税金でその費用を払うかと言えば、
それも結局は国民の負担ということとなります。
だから、調査して、
年金払込者を調査するなどは費用の点からも不可能だし、
多額の費用をかけたとしても、
元帳がないことから事実上不可能なのです。
事実上不可能なことなのに、
やればできることを前提として、
多額の費用・労力・時間をかけて調査した結果
やっぱり無理でしたと
税金が無駄使いされることを心配しています。





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2007年6月5日(火)

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