弁護士・高島秀行さんが紹介する
事前に備える賢い法律利用方法

第645
東電の賠償問題

放射能問題で、何かと批判を受けている東京電力。
その1つに賠償問題を早くしろという批判があります。

もちろん、被害を受けている方は、
早期に賠償してもらいたいとは思います。

しかし、通常、損害賠償は、事故が片付いて、
損害が確定してから、
では、誰にいくら賠償するのかという議論になります。

しかし、今回の事故は、
事故が起きて1ヶ月は経過していますが、
まだ事故は続いているわけで、
収まるのか、拡大するのかわからない状況にあります。

しかも、この原発事故を原因とする損害を全て賠償するとなると、
被害者の数も、被害金額も、
ものすごく大きなものとなり、
その確定は、とても大変なものがあります。

そもそも、その原因は、
近年稀に見る地震による津波だったわけです。

原子力発電事業者である東京電力には、
「原子力損害の賠償に関する法律」が適用されます。

通常の事故に適用される民法の損害賠償責任よりも
重い責任が課せられています。

通常の事故の賠償では、「過失」と言って、
事故が予想できることなどが必要となっていますが、
「原子力損害の賠償に関する法律」では、
この過失は不要となっています。

ただ、「異常に巨大な天変地異又は社会的動乱」
に基づく事故の場合は、
責任を負わなくてもよいこととなっています。

今回の地震による津波は、
この「異常に巨大な天変地異」に当たらない
というのが国の見解のようですが、
この当たるのか、
当たらないかをそもそも争わなくても良いのかなど、
株主や保険会社との関係も考慮して、
決定しなければならないわけです。

東京電力が法律で認められないような賠償責任を認めてしまうと、
保険金がでない可能性もあるし、
株主からは、法律で認められないような賠償金を払って
会社に損害を与えたなどと言われかねないからです。

もちろん、このような大事故が起きたときに、
東京電力が責任を負わないという主張をすれば、
企業として信用を失うかもしれませんし、
原子力発電が現在稼動している他の地域からは、
出て行って欲しいという声が高まり
原子力発電事業を行っていけなくなってしまう
というリスクもあります。

したがって、世間で批判をされてはいますが、
東京電力の経営者が、早期に、明確に、
賠償責任について説明するということは、
難しいことだと思います。


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2011年4月19日(火)

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