第131回
「有り余る時間」と「買わない勇気」

投資の話に限らず、中国でビジネスの交渉をする場合、
相手がニコニコしているうちは、
相手にまだかなりの利益があると考えて間違いありません。
相手の笑顔が消え、「もうお前には売らん!」と
背中を向けるぐらいの時が適正価格です。

前にもお話ししましたが、北京には「秀水市場」という、
ニセモノブランド品を売る一角があります。
「秀水市場」には「定価」は存在せず、
そこで売られているものは全て、交渉によりその値段が決まります。

店側が最初に提示してくる値段は、
必ずとんでもなく高い値段ですが、
粘り強く交渉していく事により、
だいたい半分から1/3の値段まで下がります。
この交渉の段階で、時間がなかったり、
買いたい気持ちが顔に出たりしていると、
高い値段で買わされる事になります。

この「有り余る時間」と「買わない勇気」は、
交渉を進めるに当たって、非常に重要な要素です。
店側も商売ですので、1日にこのぐらい稼がないと赤字が出る、
という採算ラインを頭に入れた上で、値段の交渉をしています。
「このしつこい日本人にかかずらわっている間に、
気前の良いアメリカ人の客を逃しているかもしれない」
という焦りが出たら、既に店側の負けです。
「利益は薄くても、ここはこの値段で売って、
他のもっと良い客を探そう」となってしまいます。

また、「最終的には買う気だが、もうちょっと安く買いたい」
という気持ちで交渉するのと、
「高かったら買わない」という気持ちで交渉するのとでは、
交渉の強さが全く変わってきます。
「買う気」を見て取られたら、交渉は負けです。
「150元なんて高すぎる。
100元まで値段が下がらないなら、もういらない」
と言って、店を出たとたんに、背中から
「ちょっと待て、120元でどうだ!」
と声が掛かる事が良くありますが、
この戦術を使うにも、やはり「買わない勇気」が必要です。

日本企業は本社の会議でその会社の製品を買う事を決めてから、
駐在員や出張者に「今週中にこの値段で決めて来い」などと言って、
中国企業と交渉させたりしますが、
「有り余る時間」と「買わない勇気」という観点からみれば、
既にこの交渉の勝敗は明らかです。
「時間はいくら掛かっても良いから、
数社と交渉して、この値段を出させろ。
この値段が出なかったら買う必要は無い」
と、このぐらいの心持ちで交渉させれば、
中国企業に足元を見られる事も無いかと思います。


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