第132回
誠意が無い!

良く「中国人は交渉上手だ」とか
「中国人の交渉はタフだ」と言われますが、
こちら側の常識から見ると、
至極当然の事をやっているだけの様に見えます。
こちらの常識では、ほとんどの交渉事は
両者の力関係、置かれた状況、時間の有無によって、
最初から結果が決まっており、
お互いの話し合いは、その着地地点を探り合う方法に過ぎません。
そこに感情が入り込む余地はありません。

しかし、日本企業は中国企業との交渉で、
とんでもなく自社に不利な条件を突きつけられたり、
のらりくらりと時間稼ぎをされたりすると、
すぐに「誠意が無い!」と怒って、交渉相手に不信感を募らせます。

中国企業は相手の手の内が分からないと、
取り敢えずは自社に最も有利な条件を提示して、
相手の出方を見ます。
もしかしたら、一部の条件は相手が受けてくれるかもしれません。
もし、余り有利でない条件を最初から提示して、
万一、相手が受けてしまったら、
もっと有利な条件を得るチャンスを逃してしまった事になります。
「秀水市場」で、店側の最初の言い値がとんでもなく高いのも、
もしかしたら、そのお客さんがその商品にそれだけの価値を感じて、
こちらの言い値で買ってくれるかもしれないからです。

しかし、こうした交渉スタイルを採る中国企業は、
日本企業から見れば
「自分の都合ばかり考えている、とんでもないやつらだ。
信用できん!」という事になってしまいます。
こういう場合は、
冷静にこちらからも自社に最も有利な条件を提示して、
それぞれの項目で妥協点を見つけていくべきでしょう。

「時間」の観念も、中国での交渉においては重要な要素です。
交渉事は時間が無い方がたくさん妥協して、
交渉を早くまとめる事になります。
ですから、中国では、交渉に当たる人は、
みんな全く焦っていません。
本当は時間に限りがあったとしても、
それは絶対に顔に出しません。

中国企業と交渉していると、交渉中にも関わらず、
ご飯の時間になると、「別室に宴会の準備が出来ていますので」
と宴会が始まってしまいます。
宴会の席で交渉の続きをやろうとすると
「こういう席で、そういう不粋な話はやめましょう」
とたしなめられ、
結局、白酒をしこたま飲まされて、
気付いたら次の朝になっていた、
という経験をされた方も多いのでは無いでしょうか。

毎日、そんな状態が続くと、
日本人は遅々として進まない交渉に、
いらいらを募らせてしまいますが、
これも、時間を引き延ばして妥協を引き出そうとする
中国企業の戦術と考えれば、
冷静に対応出来るのではないでしょうか。


←前回記事へ 2003年9月3日(水) 次回記事へ→
過去記事へ
ホーム
最新記事へ