第167回
「ニコポン課長」タラちゃん

「キル・ビル」の撮影の際に感心したのは、
タラちゃん(クェンティン・タランティーノ監督)の
ムードメーキングのうまさです。
タラちゃんと言えば、
「パルプ・フィクション」などの作品を撮った
「ハリウッドの鬼才」と呼ばれる人物。
彼が撮る映画の暴力シーンの激しさなどを見ると、
撮影現場もさぞ罵声と暴力に溢れているのでは、
と思って行ったのですが、実際はそんな事は全く無く、
タラちゃんを中心に和気藹々と撮影が進んで行きます。

「キル・ビル」はスーパーバイオレンスですので、
ジュリー・ドレフュスがユマ・サーマンに
日本刀で片腕を切り落とされて、血だらけでのた打ち回る、
なんていうシーンがある訳です。
しかし、OKが出ると、一気に緊張が緩み、
タラちゃんが血だらけで片腕の無い
ジュリー・ドレフュスに駆け寄り
「今の、すごい良かったよー」と笑顔で話し掛ける、
などというシーンも見受けられました。

映画にはNGが付き物です。
NGが度重なると、ユマ・サーマンやルーシー・リューなど、
主役級の女優さんたちはだんだんいらいらして、
ナーバスになってきます。
そんな時でも、タラちゃんは
「いやー、今のすごーく良かった。
でも、もう一回撮ればもっと良い物が撮れると思うよ」
などと言いながら、
ナーバスになってきている女優さんたちをなだめすかして、
撮影を続けていきます。

タラちゃんは女優さんや俳優さんだけでなく、
カメラマンや音声などのスタッフにも、
非常に気を使っています。
タラちゃんがOKを出しているのに、
カメラマンがそのシーンに納得いかず、
NGを出す事もありました。
そんな時もタラちゃんはすぐに前言を撤回、
「そーだよね。もう一回撮ろうね」と言って
撮り直しとなるのでした。

タラちゃんを見ていたら、
その昔、日本で流行った「ニコポン課長」を思い出しました。
「ニコポン課長」とは、ニコニコ笑って
部下の肩を「頑張れよ」とポンと叩く課長ですが、
課長自身は全然仕事が出来ません。
しかし、それで部下が頑張ってくれれば、
それが課長の成績になる訳です。

映画撮影の様に、チームプレーで
みんなで良いものを作っていく現場では、
タラちゃんの様な「ニコポン課長」の存在が不可欠です。
現在の日本企業では、アメリカ式の実力主義が幅をきかしており、
「ニコポン課長」などすぐに淘汰されてしまいます。
実力主義の本場アメリカから来た
「ニコポン課長」タラちゃんを見ていると、
「ニコポン課長」の下で
みんなが気持ち良く実力を発揮して仕事をした方が、
結果的には業績が上がるのではないだろうか、
という気がして来ました。


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