第246回
「必要最低品質」と「過剰品質」

北京は非常に乾燥した所です。
ちゃんとした雨が降る日は、
年に20日もないのではないでしょうか。

東京で勤めている時は、朝起きて、雨が降っていると、
もううんざりでした。
自宅から駅まで歩いて行く間に
スーツがびしょびしょになったり、
満員電車で隣のおやぢが持っている濡れた傘を
ズボンに押し付けられたり。
雨降りには、そんな嫌な思い出しかありませんでしたので、
私は雨が余り降らない北京の気候が大好きです。

北京という街は、
雨がほとんど降らない事を前提に造られています。
排水溝など全く整備されていませんので、
たくさん雨が降ると、
どこもかしこも大洪水になってしまいます。
「年に20日も降らない雨の為に、
排水溝を作るなど不合理である」というのが、その理由です。
ほとんど降らない雨の為に、
莫大な予算を使って街中に排水溝を作るぐらいなら、
雨の日の洪水は我慢して、
その予算を農村部の開発に使った方が良い、という事です。
ご説ごもっとも。

この合理主義のお陰で、
北京の発展はものすごい勢いで進んでいます。
高速道路や都市開発の工期が異様に短いのも、
こうした合理主義に基づいた
「必要最低品質」で建設している為かもしれません。

例えば、歩道のタイル。
日本では、歩道を作る際、
四角いタイルを敷き詰めた後、
端っこの部分は、
四角いタイルを丁寧に切って埋めていきますが、
中国では端っこの部分を埋めておらず、
雑草が生えちゃっている歩道がたくさんあります。

これは「人が歩く真ん中の部分さえ、
ちゃんとタイルが敷いてあればいいだろう」という事です。
我々日本人から見れば、いい加減な工事ですが、
歩行者が歩くのには全く支障を来たしませんし、
これによって余った時間と予算を新規の開発に振り向ければ、
発展を加速する事が出来ます。

既に開発が十分に進んでいる日本では、
役所は「過剰品質」で公共工事を発注し、
建設業者を潤わせるのも一つの地域経済振興策、
と考えているのかもしれませんが、
インフラ整備を一刻も早く内陸部、農村部に
広げていかなければならない中国共産党には、
一っ所の工事の出来に拘っている暇はありません。

排水溝を作って、雨の日の洪水を防いだり、
歩道の端っこの部分を埋めて、見栄えを良くするのは、
中国全土の開発が一通り終わってから、
という事になりそうです。


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