第256回
「中華風日本料理」

ラーメンの格が他の料理より低い、なんていう事は、
中国に住んでみないとなかなか分かりません。
中国で飲食店など、消費者相手の商売をする場合は、
やはり、まずは中国に住んでみて、
中国の人たちの考え方を見極めなければなりません。

以前、私は北京のレストランで
「出てきたビールが冷たい」と言って怒っている客を
見た事があります。
その客曰く「こんな冷たいビール飲んで、
腹でも壊したらどーしてくれるんだ!」。
日本では「出てきたビールが冷たくない」
と言って怒る客は見た事がありますが、
「出てきたビールが冷たい」
と言って怒る客は見た事がありません。

最近は都市部を中心に
「ビールは冷やして飲むもの」という常識が
浸透してきていますが、
以前の中国では「ビールは常温で飲むもの」
というのが常識でした。
今でも保守的な人たちは常温ビールを好むらしく、
先日も、レストランでビールを注文した所、
ウェイトレスの女の子が
「すいません。冷たいビールしかないですけど、いいですか?」
と恐る恐る訊いてきました。

中国の人たちは元々、
冷たいものを飲んだり食べたりするのは
余り好きではありません。
日本の中華料理屋には
「冷やし中華」というメニューがありますが、
中国では日本料理屋でしか食べられません。
中国の人たちの食文化から考えると、
「冷やし中華」はどう見ても、
日本で考案された「中華風日本料理」です。

ちなみに、私は初めて天津に行った時に、
「天津に行ったら、やっぱ天津丼でしょ」という事で、
「本場の」天津丼を楽しみにしていたのですが、
天津の人たちに「天津丼?なんだそれ?」と言われ、
意気消沈して帰って来た覚えがあります。
「天津丼」もどうも、
日本人が作った「中華風日本料理」の様です。

ただ、「天津甘栗」はちゃんと天津に存在します。
天津に行くと、露天で甘栗を作っている店がいくつかあり、
人気の店の前には長蛇の列が出来ています。
しかし、これも実は、日本人が天津に来て
「天津甘栗は天津名物のはずだ」と言うので、
やってみたら結構流行った、
という後から作られた名物らしいです。

元々は、河北省・唐山産の栗を天津港から日本に輸出して、
日本で甘栗として売り出していたのですが、
「唐山甘栗」ではみんなに「どこよ、それ?」と言われるので、
みんなが知っている天津の名を冠し
「天津甘栗」と呼ばれる様になった様です。
そうした意味では「天津甘栗」も、
一種の「中華風日本料理」と言えるかも知れません。


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