第278回
「ビジネスを興して成功するのは「よそ者」だ」

その土地の事情は住んでみなければ分からないのですが、
その土地に長く住めば住むほど良い、
というものでもありません。
長く住めば住むほど、その土地の習慣に慣れてしまって、
「よそ者」としての新鮮な目が曇ってしまいます。

例えば、私が中国に来た当時、ものを買ってお金を払うと、
おつりは投げ返されるのが当たり前でした。
おつりを投げ返される、なんて事は
日本では絶対に起こり得ません。
私は非常に不愉快に感じて、
「おつりを投げ返さないお店があったらいいのにな」
と思いました。
その「あったらいいのにな」という思いを
ビジネスに昇華すれば、
日本式の従業員教育を導入した、
「おつりを投げ返されないお店」を自分で作って、
大儲け出来たかもしれません。

しかし、中国で生まれ育った人は、小さい頃から
「おつりは投げ返されるものだ」と思っていますので、
「おつりを投げ返されないお店」を作る、
という発想自体が生まれません。
それは、長くその土地に住んで、
その土地の習慣に慣れてしまった人にも言える事です。

邱さんは常々、「ビジネスを興して成功するのは、
その土地の人間ではなくて、「よそ者」だ」
とおっしゃっていますが、本当にその通りだと思います。
「よそ者」の目には、
その土地の人間が常識だと思って見過ごしている事も、
大きなビジネスチャンスに映ります。
その土地土地の常識の差が、ビジネスチャンスを生むんですね。

斯く言う私も、既に8年以上北京に住んで、
「よそ者」としての目が曇りつつある事は否めません。

第60回 「差」がビジネスの種を生み出す
でもご紹介しましたが、
日本から来た顧客企業の社長さんと火鍋と食べに行った時に、
社長が「防犯用の背もたれカバー」を見て
「これはビジネスとしておもしろい」と言うんですね。
それを聞いて、私は「よそ者」として物事を見る新鮮な目が
曇ってきている事を感じました。

私にとっては、「防犯用の背もたれカバー」を
レストランで被せてもらう事は、
半ば常識となっていたのですが、
東京から来た社長の目には、
ビジネスチャンスに映ったんですね。

その土地でビジネスを興すには、
住んでみなければ、その土地に何が足りないか分かりませんが、
長く住み過ぎても「よそ者」としての目が曇ってしまい、
ビジネスチャンスがどこにあるか、
分からなくなってしまいます。
やはり、邱さんの様に、いろいろな所に住んでみて、
その土地土地の事情を深く知るのと同時に、
常に新鮮な「よそ者」の目を保つ事が、
ビジネスチャンスを発見するキーポイントなのかもしれません。


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