第287回
「泣きバー」

先日、ニュースを見ていたら、江蘇省の省都・南京市で、
お客がお金を払って泣く為のバー、
「哭(くーばー、泣きバー)」が開店した、
という記事がありました。
中国語で「哭」は「泣きなさい」という意味にもなります。

この「泣きバー」、市内のホテルの1室、
わずか9平方メートルを借りて営業、
店内には泣きやすい様に、
唐辛子を溶かした水やニンニクが置かれており、
BGMには香港の大スター・劉徳華(アンディ・ラウ)のヒット曲
「男人哭不是罪(男も泣きなさい、それは罪ではない)」
が流れているそうです。

こう聞くと、余りにばかばかしくて
「誰も行かんだろ、こんなの」と思うのですが、
この「泣きバー」、
1時間50元(750円)も取られるにも関わらず、
1日十数人の来客があり、
月の売上は5,000元(75,000円)に達する繁盛ぶり、
との事です。

「泣きバー」のオーナーは、
以前は結婚相談所を経営していたのですが、
多くの顧客が「泣きたいのに泣ける場所がない」
と言っているのを聞いて、
このビジネスを思いついたそうです。
心理学者によれば、「競争激化で人々のストレスが溜まり、
それを発散する場所を求めている」事が、
この「泣きバー」の繁盛につながっている、との事です。

日本はこの10年、バブル崩壊後の不景気で、
企業業績の不振が続く中、
日本企業の終身雇用、年功序列神話が崩れ、
大量の失業者が発生し、失業率が上昇、
運良く会社に残った人とて安穏としてはおれず、
厳しい競争にさらされています。
そんな中で現実から逃避出来たり、癒されたりする
様々なサービスや商品が売り出されてきました。

最近の中国経済は絶好調ではありますが、
むしろ競争は激化しています。
中国社会の資本主義化により、
一部の人間が巨万の富を得る一方、
余剰人員はバンバン下崗(しゃーがん、一時帰休)させられ、
生きて行くのがやっとの生活をしています。
会社に残った人間も、
いつ下崗させられるか分からないプレッシャーの中、
業績を上げるのに必死なのは、日本と同じです。

そんな状況下で「泣きバー」が繁盛するのは、
必然なのかもしれません。
今後、中国では、資本主義化が激しくなるとともに、競争も激化、
日本と同じ様に逃避や癒しが必要になってくるのでしょう。

そんな所に、厳しい競争では1歩先を走っている日本から
逃避系や癒し系のサービスや商品を
そのまま持ってくれば、
結構ヒットするのではないでしょうか。
「泣きバー」でさえ繁盛しているぐらいですから...。


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