第420回
「お犬様に土下座」事件

最近、中国では、
ペットを飼う人が増えてきました。
しかし、ほんの10年前、
私が北京に来た1996年当時、
中国では犬は食べるものでした。

北京の街には野良犬がほとんどいません。
駐在当初、不思議に思って、丸紅北京支店の
中国人スタッフにその訳を尋ねてみた所、
「柳田さん、ごちそうが目の前を走ってたら、
誰だって捕まえるでしょ」という答えが帰ってきて、
戦慄を覚えた事があります。

しかし、これは、
中国人スタッフのたちの悪い冗談で、
実際は、食用の犬は専用の
「養狗場(やんごうちゃん、養犬場)」で
育てられます。

私は山西省の田舎に出張した際に、
「養狗場」を見た事があります。
「養狗場」と書かれた看板に、
人懐っこそうな表情で
こちらを見ている犬の写真があり、
それはそれでかなりのショックでした。

それが、この10年足らずで、中国は豊かになり、
人間が犬を「食べる」のではなく、
人間が犬を「食べさせる」時代になりました。
血統書付きの犬は、
サラリーマンの給料1年分以上の値段で売られ、
犬はその辺の建設労働者が食べるご飯の
数倍の値段のドッグフードを食べています。

昔の日本がそうだった様に、
今の中国の人たちにとって、
血統書付きの犬を飼う事は、
成功者の証の一つなのです。

そんな状況下で起こるべくして起きたのが、
「お犬様に土下座」事件です。

昨年11月、安徽省合肥市で、
タクシーの運転手がペットの犬をはねました。
怒り狂った飼い主は、タクシーの運転手に対して、
はねた犬に謝罪する事を要求、
警察官が現場に到着するまで、
運転手は犬に対して、
土下座をさせられていたそうです。

その後、どうにも腹の虫が収まらない運転手は、
「人間の尊厳を傷つけられた」として、飼い主を提訴。
合肥市包河区人民法院は、運転手の言い分を認め、
飼い主に謝罪と5,000元(75,000円)の
慰謝料の支払いを命じました。

金持ちが飼っている犬と、貧乏な人間では、
どっちがエライのか。
今後、中国では、経済成長の波に乗った成金と、
波に乗り損ねた労働者の格差が広がるに従って、
この手の争いが増えていく事が予想されます。


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