第509回
「政治について語っても、お腹はいっぱいにならない」

中国には言論の自由も、信教の自由もありません。
「あなたにとって一番大切なことは何ですか?」
という質問をした場合、ほとんどの人が
「フリーダム(自由)」と答えるアメリカの人たちには、
耐えがたい状況に見えるでしょうが、
当事者である中国の人たちは、
自由がなくても、結構幸せに暮らしています。

1991年、私が初めて中国に出張したときには、
共産圏に足を踏み入れること自体が初めてでしたので、
「共産党独裁国家で抑圧されている一般大衆は、
本当はどう考えているんだろう」
ということに非常に興味がありました。

そのため、暇さえあれば、
丸紅北京支店の中国人スタッフや、
石炭関係の取引先の人たちをつかまえて、
「中国は共産党独裁で、一般大衆には参政権がないですが、
どう思いますか?」とか、
「民主化を要求した学生たちを、
政府が武力で強制排除した天安門事件をどう思いますか?」
などという質問をしまくったのですが、
彼らの答えはいつも「どうも思ってない」でした。

当時は、「これはきっと、
どこかに共産党のスパイがいて密告されるかもしれないから、
本当のことが言えないのに違いない」と思っていたのですが、
今から思い返してみると、
彼らは本当にどうも思っていなかったのかもしれません。

中国は5,000年もの昔から、、
ずーっと歴代王朝の皇帝が支配してきたため、
「上に政策あれば、下に対策あり」が
一般大衆の処世術として定着してきました。
自分が皇帝になれない以上、
上の政策を語っても何の役にも立たず、
むしろ、決められた枠の中で
うまく立ち回ることにより、
いかにお腹いっぱいで幸せに暮らすか、の方が、
一般大衆にとっては現実的な対処方法だったのです。

そして今の中国。
今の中国には、皇帝こそいませんが、
清王朝とか明王朝というのが、中国共産党に変わっただけで、
独裁国家であることに、なんら変わりはありません。

そして、「上に政策あれば、下に対策あり」
という処世術を忠実に守って、
うまく立ち回って生き延びた人たちの末裔である
今の中国人には、
「政治について語っても、お腹はいっぱいにならない」
というDNAが脈々と受け継がれているのです。


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2006年1月23日(月)

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