第537回
命がけの陳情

地元の人民政府による土地の強制収用や、
地元の共産党幹部や公安の腐敗を、
北京の中央政府に直訴するために、
地方から北京に来た農民が集まって住んでいた、
北京南駅近くの「直訴村」。

この「直訴村」は、
2005年11月のブッシュ大統領訪中を前に
撤去されてしまいました。
こんなものが北京にあることを
アメリカの大統領が公的に知ることになれば、
中国共産党による国家経営が
うまくいっていないことを露呈することになり、
「没面子(めいみぇんつ、メンツ丸つぶれ)」も
いいところだからです。

その後ちりぢりになりながらも、
陳情活動を続けていた農民たちですが、
今回、「人大」を前に、連日、
数百人単位の農民が拘束されたようです。

北京の公安当局は、各機関の「信訪接待室」に
陳情に来た農民たちを次々と拘束、
各省の北京事務所に連絡し、
強制的に地元へ送還しているそうです。

地元へ送還された農民たちは、
拘置所、精神病院、労働改造所などに収容され、
かなりひどい扱いを受けるようです。

河南省から来た女性は
「暴行を受けたり、
鎮静剤などの注射を打たれたりした」と訴え、
4年間にわたる陳情活動で100回以上拘束された、
という吉林省から来た女性は
「「死人床(すーれんちょわん)」と呼ばれる
鉄片で編まれたベッドに放り出され、
足に刺された30以上の電気針を通じて
電流が心臓まで達した。
それでも私は屈しない」と涙を流した、
とのことです。

中国では陳情も命がけです。

中国政府は、ブッシュ大統領や
「人大」代表の安全を守るため、
また、直訴者が集まって暴動などを起こし、
北京の治安が悪くならないように、
という名目で、「直訴村」を撤去したり、
直訴者を拘束したりしているのだと思いますが、
中央政府が聞く耳を持たなければ、
怒りのやり場をなくした農民たちは、
暴動に訴えるしかなくなってしまいます。

昨年、中国で8万件を超える暴動が起きたのも、
「自分たち農民の話に耳を傾けてくれる人がいない」、
という絶望感に原因があるように思います。

今の中国の中央政府は民衆の怖さを知っています。
しかし、地方の木っ端役人の中には、
時代の変化に対応できず、
いまだに昔の強くて偉かった共産党のつもりで、
権力を濫用している人がいます。

今回の「人大」で中央政府が打ち出した
「民衆重視」政策を、
いかに早く地方の木っ端役人まで浸透させるか。
これが、今後、中国共産党による国家経営の成否を占う
キーポイントになるのではないか、と私は思います。


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2006年3月29日(水)

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