第542回
「学士様」の「自分探し」

中国の大学卒業者の就職率が
低くなっているもう一つの理由は、
大学卒業者側の理想が高く、
仕事をえり好みする傾向があるから、
ではないでしょうか。

中国の大学進学率は
上がってきているとは言え、いまだ20%弱。
少子化により、希望すれば誰でも大学に入ることができる、
という「大学全入時代」を迎えようとしている日本と違って、
中国では大学生、というだけですでに選ばれた超エリート、
「学士様」なのです。

更に悪いことに、
1979年から始まった一人っ子政策のおかげで、
今の大学生はほぼ例外なく一人っ子。
その中でも大学に入るような頭の良い子は、
小さい頃から、両親やおじいちゃん、おばあちゃんに
「おまえは天才だ!」
と言われ続けて育ってきていますので、
新卒者は、手が付けられないほど
天狗状態になって会社に入社してきます。

私が中国で起業して
初めて雇った従業員も新卒者でした。
彼女は、簡単な仕事も満足にできないのですが、
それを指摘すると、二言めには、
「私はこんな仕事をするために、
大学で高度な知識を習得したんじゃない!」
と言い放ちます。

...あのな、お嬢ちゃん。
そういうセリフは、簡単な仕事が
満足にできるようになってから言いな!

彼女に限らず、中国の大学卒業者は総じて、
仕事に対する理想が非常に高いように思います。
そりゃ、小さい頃から遊びたいのも我慢して
大学を卒業するまでずっと猛勉強をしてきたのですから、
就職したら、大学で習得した高度な知識を生かして
高給取りになって、
今までの人生苦労した分取り戻したい、
という気持ちはわかります。

しかし、実際に働いてみるとわかるのですが、
世の中にはそんな高度な知識を必要とする仕事ばかりではなく、
単純な作業を繰り返すばかりの仕事もありますし、
知力よりも体力がものを言う仕事もあります。
というか、そういう仕事の方が、圧倒的に多いのです。

中国の大学卒業者は、
今まで思い描いていた理想の職業と、
現実とのギャップの大きさに愕然とし、
自分の理想とする職業にめぐり合うまで就職しないため、
この好景気の中でも、就職率が
低くなっているのではないでしょうか。

この辺、今の日本のフリーターやニートの人たちの
「自分探し」に通じるところがあります。
ま、そうやって青い鳥を追い続けても、
ちゃんと食っていけるんだったら、
それはそれでいいんですけどね...。


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2006年4月10日(月)

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