第541回
「大学は出たけれど」

これだけの高度経済成長が続いて、
企業が優秀な人材の確保に奔走しているにも関わらず、
中国の大学卒業者の就職戦線は、
超の付く氷河期を迎えているようです。

2006年、中国都市部の雇用情勢は、
「2,500万人の求職者が、1,100万人分の職を争う、
最悪の雇用危機を迎える」とのことです。
特に、今年の大学卒業者は410万人と、
前年比75万人増で史上最多を記録する見込みであり、
大学はリストラ中の国有企業と並ぶ
「失業者の供給源」である、という指摘まで出ています。

大学が「失業者の供給源」...。

小津安二郎監督の映画に
「大学は出たけれど」という作品がありましたが、
あれは1929年の世界大恐慌による不況の時の話。
毎年、10%前後の経済成長率を記録し、
未曾有の好景気が続く中国で、
なぜ、大学卒業者の就職戦線が
「超氷河期」なのでしょうか。

この不思議な現象の背景には、
2つの理由がある、と私は見ています。

一つは、新卒者は即戦力にならないので、
企業が雇いたがらないから、ではないでしょうか。

まっさらな新卒者を雇って、みっちり教育して、
長く働いてもらう、という日本企業と違って、
元々、中国企業は、
すぐに使える即戦力を求める傾向があります。

中国は日本に比べると転職率がはるかに高く、
一生懸命教育しても、仕事を覚えて一人前になったら、
すぐにそれを武器に、もっと給料の良い
他の企業に転職してしまいますので、
教育するだけ損なのです。

ですので、日本企業のように、
「最初の10年は赤字覚悟でみっちり教育して、
中堅社員になってから会社の利益に貢献してもらおう」
などという長期計画は立てられず、
「何しろ、即戦力の人を雇って、
会社の利益への貢献度に応じて給料を払おう」
という考え方になってしまうのです。

更に、最近は好景気で忙しいですので、
すぐに戦力となる転職者が、
以前にも増して求められているのではないでしょうか。
このくそ忙しい時に、仕事の経験のない新卒者など
足手まとい以外のなにものでもないのです。


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2006年4月7日(金)

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