第553回
東北3省に未来はあるのか?

中国の東北3省、
遼寧省、吉林省、黒龍江省は、
今でこそ中央政府が「東北振興」政策を
打ち出さなければならないほど
発展が遅れた地域になってしまいましたが、
改革開放政策で沿海地域の経済が活発化し始めるまでは、
中国で最も経済が発展した重工業地帯でした。

これは、東北3省が満州国だった時代、
日本が建設した重工業の工場や鉄道を、
戦後、中国がそっくりそのまま継承したため、
と言われています。

しかし、改革開放後の東北3省は、
工業地帯として長い歴史を持つことが、逆にあだとなって、
現在のような貧乏な状態になってしまったのではないか、
と私は見ています。

以前、私は、丸紅の北京支店で
石炭貿易の仕事をしていたときに、
東北3省の石炭を日本に輸出しようとしたことがありました。
東北3省、特に、黒龍江省の東部、
鶴崗(はーがん)や七台河(ちーたいはー)などの地域では、
非常に良質な石炭が採れるのです。

私は早速、現地の国有石炭会社との交渉に入ったのですが、
彼らから出てくる値段がとんでもなく高い。
どうしてこんなに高いのかよくよく聞いてみると、
結局、何万人もいる定年退職した元社員に、
働いていた時の給料と同額の年金を払い続けているから、
というのが原因でした。

石炭会社や重工業の会社は、ほぼ全てが国有企業。
国有企業は利益を出すより、
人民の生活を守ることが第一義なので、
定年退職者にも働いていた時の給料と
同額の年金を支払う。
歴史の長い国有企業は
その分定年退職者が多いのでコストがかさむ。
その高いコストを価格に乗せるので、
販売価格が高くなる、という構造です。

こんな状況では、歴史が浅く人件費負担が少ない、
山東省のヤン州煤業(H株、1171)などとの競争に
勝てるわけがありません。

社会主義国家だった頃の中国ならば、
人民の生活を守るため、ということで、
国有企業にマーケットを独占させて、
やたらと高い価格で販売させることも可能でしたが、
今の中国は実質、資本主義国家。
競争に敗れた会社は、
マーケットからの退出を迫られます。

東北3省がかつての輝きを取り戻すためには、
激しい痛みを伴うとしても、
過去のしがらみを一切断ち切り、
産業構造を根底から変えていくことが必要なのです。


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2006年5月5日(水)

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