第562回
中国ではなぜインフレが起きないのか?

今年2月、中国の外貨準備高は
8,536億ドルに達し、
日本を抜いて世界一になりました。

外貨が貯まる、ということは、
貯まった分だけ人民元が発行されている、
ということですから、
普通、これだけ外貨準備高が増えれば、
市中に人民元があふれ、
相対的に人民元の価値が下がって、
いわゆる過剰流動性によるインフレを引き起こし、
物価が上昇するはずです。
しかし、現状、中国では、
投機対象とされている一部の不動産などを除いては、
物価は上がっていません。

私、マクロ経済はど素人なのですが、
ど素人なりに考えると、これは、
中国の過剰な流動性が消費ではなく、
不動産などへの投機に回っているので、
物価が上がらないのではないか、
というような気がします。

イメージとしては、
市中に出回るはずの人民元が、
マンションの壁に塗り込められて
固定化されてしまったため、
インフレが起こっていない、
という感じでしょうか。

もちろん、中国も
金持ちがどんどん増えていますので、
消費も上向きになっているはずなのですが、
増産や生産性の向上などで
十分にカバーできる程度しか消費が増加していないため、
モノの不足は起こらず、その結果、
物価の上昇が起こっていないのではないでしょうか。

今、中国政府が最も恐れているのは、
アメリカでも台湾でもなく、国民の不満です。
インフレによって、日本の高度経済成長期の
狂乱物価のような物価高を招けば、
国民の暮らしは苦しくなり、
中国各地で散発的に起こっている反政府暴動が、
全国規模に広がることも十分ありえます。

ですので、中国政府としては、
インフレによる物価の上昇は、
なんとしてでも防がなければなりません。

インフレを防ぐ特効薬は、
人民元の為替レートを高くすることです。
人民元高になれば、
輸出が減り、輸入が増えるため、
外貨準備高は減り、その分、
市中に出回る人民元も減るため、
過剰流動性の問題は解決し、
インフレも物価高も回避できます。

しかし、「世界の工場」中国には、
輸出型の生産工場がたくさんあり、
その工場で働いている人がたくさんいます。
急激な人民元高は、
そうした輸出型生産工場に壊滅的な打撃を与え、
多くの失業者を発生させるため、
これまた社会を混乱させる原因となりかねません。

過剰流動性がマンションの壁に塗り込められて固定化され、
インフレが抑えられている間に、
国内の産業構造を輸出型から内需型に転換し、
人民元の相場が高くなっても良いように備える、
というのが、中国政府の思惑なのではないでしょうか。


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2006年5月26日(金)

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