第641回
「焼け太り」狙いの人たちとの果てしない闘い

中国では保険がまだあまり普及していません。
日本のように生命保険の勧誘のおばちゃんが
職場に来ることもありませんし、
自動車の強制保険制度も始まったばかりです。
そういう意味では、
まだまだ未開拓の市場がたくさん残っていますので、
中国の保険会社は今後、
大きく業績を伸ばしていくのではないかと思われます。

ただ、保険の普及に伴って、
保険の概念を理解していない人たちとのトラブルも、
今後、大幅に増加していくことが予想されます。

そもそも保険というものは、
一家の大黒柱が死んだときに、
残された家族の生活を守る、とか、
予測できなかった事故でモノが壊れたときに、
その損害をカバーし、
家庭や会社が破産してしまうのを防ぐ、
という目的でできたものです。

ですので、支払った保険料は一種の「安心料」と捉え、
何も事故が起こらなければ、それはそれでよかった、
と考えるべきものです。

しかし、中国の人たちの中には、
支払った保険料と実際の損害額を合わせた金額を
更に上回る保険金を回収しなければ気がすまない、
いわゆる「焼け太り」を狙う人がたくさんいます。

以前、当社の引越サービスを利用した
中国人のお客さんの中にも、
「焼け太り」狙いの人がいました。

そのお客さんはまず、グラスや花瓶などの割れ物を
そのまま裸でダンボール箱の中に入れました。
そして、どう見ても数十元(数百円)にしか見えない
グラスや花瓶1つ1つに、1万元(15万円)以上の
損害保険をかけようとしました。

引越先でダンボール箱を開けて、
首尾よく割れ物が割れていたら、
数万元(数十万円)が現金で懐に入り大儲け、
という算段です。

しかし、そんなことがまかり通れば、
保険制度が成り立たないのは、
ちょっと考えればわかることです。
数百元(数千円)の保険料で、
確実に数万元(数十万円)の保険金が手に入るのならば、
額に汗して働く人などいなくなってしまいます。

そのお客さんには、
再度厳重に梱包させてもらえなければ運べないこと、
万一壊れても修理代か同等の代替品の購入費用の分しか
保険金が下りないこと、などをご説明し、
何とかご納得頂きましたが、
こんな考え方の人たちに、
保険金の請求書をガンガン送りつけてこられては、
保険会社はたまったものではありません。

中国の保険会社は今後、
新たな市場を開拓し業績が伸びていくことが予想されますが、
一方で、「焼け太り」狙いの人たちとの
果てしない闘いを繰り広げていかなければならないのです。


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2006年11月27日(月)

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