第644回
中国狂犬病狂想曲

先日、日本で狂犬病を発症した
京都市の60代の男性が死亡しました。
男性はフィリピンで犬にかまれて
狂犬病ウイルスに感染し、帰国後に発症しました。
日本国内で狂犬病の発症が確認されたのは
36年ぶりとのことです。

狂犬病は日本では馴染みの薄い病気ですが、
中国では毎年2,000-3,000人が死亡しているそうです。
特に、最近は犬をペットとして飼う人が増えてきたため、
今年に入って狂犬病を発症して死亡する人が急増、
肺結核やエイズを抑えて、
死者数が最も多い法定伝染病となっています。

こうした事態を重く見た一部の地方政府は、
狂犬病の蔓延を食い止めるために、
犬の処分という強硬手段に出ました。

今年4月には、
雲南省羅平県が野良犬の撲殺を始めました。
県の当局者が毎日決まった時間に
路上で野良犬を殺し続け、
多い日には20匹以上が殺されたそうです。
住民からは「やり過ぎだ」とか
「残忍だ」という声があがりましたが、
県当局はあくまで「狂犬病の感染を防止し、
衛生を守るためには仕方ない」として
野良犬狩りを続けているようです。

7月には雲南省牟定県で
1カ月の間に300人以上の住民が犬にかまれ、
そのうち3人が狂犬病で死亡したのを受けて、
県当局が公安局長を隊長に「犬退治隊」を結成、
県内の犬の98.8%に当たる約5万5千匹を対象とした
犬の集中処分をしました。
この処分の対象は野良犬だけではなく、
ペットとして飼われている犬も含まれており、
処分を免れたのは警察犬と軍用犬だけだったそうです。

この「犬退治隊」に
ペットの犬を見つけられてしまった飼い主は一様に
「家族の一員なので殺さないでくれ」と懇願しましたが、
犬は容赦なくこん棒で殴り殺されたり、
薬で安楽死させられたりし、
飼い主には1匹当たり5元(75円)の
補償金が支払われたそうです。

「狂犬病感染防止」という大義はあるにしても、
「犬を全部殺してしまえば、狂犬病はなくなる」
という発想は、あまりに乱暴です。

このニュースを聞いて、
「プロレタリア独裁」という大義を振りかざし、
「資本家と知識分子を全部殺してしまえば、
中国はプロレタリアートの国になる」という発想で
中国を大混乱に陥れた文化大革命を思い出したのは、
私だけではないと思うのですが、いかがでしょうか。


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2006年12月4日(月)

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