第712回
中国政府が1,000元札を発行しないワケ

分の紙幣が流通停止になる一方で、
以前から待ち望まれている
100元より上の高額紙幣を発行する、という話は、
いつまで経っても実現しません。

日本では銀行に行って100万円下ろしても、
1万円札100枚の束1つですので、
カバンに忍ばせて銀行を出ることが可能です。

しかし、中国の銀行に行って100万円分の人民元を下ろすと、
100元札100枚の束が6つも来てしまいますので、
カバンに忍ばせて、という訳にはいかず、
銀行名が書かれた手提げ袋をもらってその中にお金を入れ、
いかにも「今、おカネたくさん下ろしてきました」
という風情で銀行を出なければなりません。
ドロボーにとって、こんなにわかりやすいことはありません。

昨年、中国ではインターネット上で
「ケ小平の肖像が入った500元紙幣が発行される」
とのデマが流れ、マスメディアでも報道されましたが、
中国人民銀行はきっぱりと否定しました。
人々が「荒唐無稽な話だ」と一蹴すれば、
これほど大きい話にはならなかったはずなのですが、
マスメディアでも報道される、ということは、
それほど高額紙幣の発行は現実的な話なのです。

それでも高額紙幣が発行されないのは、
一つのはニセ札の問題があるからです。

ニセ札は100元札を1万枚刷るのも、
1,000元札を1万枚刷るのもコストは同じですが、
売上は900万元(1.35億円)も違ってきます。

高額紙幣の発行は、ニセ札業者を利することになり、
その採算の良さからニセ札業界に
大量の新規参入を招くことにもなりかねません。
多少の不便はあっても、
この問題が完全に解決されるまでは、
中国政府は最高額紙幣を
100元のままに据え置くのではないでしょうか。

もう一つの理由は、
老百姓(らおばいしん、一般庶民)の感情を逆撫でしないよう、
配慮しているためではないかと思います。

1,000元札を作っても、
それを使うのは一部の金持ちだけで、
老百姓の中には、一生その姿を拝むことなく
死んでいく人も出てくるものと思われます。
これで「中国政府は金持ちの味方なのか!」
などという理由で、暴動でも起こされた日には
たまったものではありません。

金持ちには多少不便な思いをさせても、
「中国政府は老百姓の味方ですよ」という姿勢を示すことが、
中国の治安の維持には不可欠なのです。


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2007年5月11日(金)

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