第713回
東南アジアに流れ込むニセ人民元

中国でタクシーに乗ったときに、100元札で支払うと、
運転手は必ず紙幣をビシビシと引っ張って紙の質を調べ、
その後、明るいところにかざして透かしを確認します。

「そんなことでニセ札を識別できるのか」とも思うのですが、
中国の粗悪なニセ札は、紙の質が明らかに違ったり、
透かしがなかったりするので、
そんなことでも見分けがつくのです。
逆に、それで見分けがつかなかったニセ札は、
他の人も見分けがつきませんので、
銀行にたどり着かない限り、
そのままホンモノと一緒に流通してしまうのです。

日本では「1万円札のニセ札が見つかりました」という事件は、
テレビのニュースで報道されたりしますが、
中国ではあまりに日常茶飯事であるため、
ニュースとしての価値はゼロです。

かく言う私も、誰にも受け取ってもらえない、
ニセ札と思われる100元札を持っています。
銀行に持っていくと何の代償もなく没収されてしまいますので、
仕方なく手元に置いてあります。
中国ではニセ札は、こんなにも身近なものなのです。

ただ、最近は、受け取る側もニセ札を掴まされないように、
かなり用心するようになってきました。
スーパーなどでは100元札を
1枚1枚ニセ札識別器で鑑定しますし、
会社間の取引では、現金は受け付けず、
銀行振込や小切手での支払いを要求する会社が増えてきました。

こうした中国国内の動きに対し、ニセ札業者は
まだニセ人民元に対する免疫ができていない
東南アジア各国を新たなターゲットとして、
人民元のニセ札を流通させ始めているようです。

人民元はいまだハードカレンシーではありませんので、
基本的には外貨との兌換はできず、
貿易取引の決済には使えません。
しかし、昨今の人民元先高期待により、
人民元が欲しい人がたくさん出てきたため、
東南アジア各国の企業の中には、
中国企業に人民元の現金での支払いを
許している会社も多いようです。

ただ、こうした取引で支払われる人民元にはニセ札が多く、
中国にマンガン鉱石を販売しているあるベトナム企業は、
受け取った代金の10%近くがニセ札だったこともある、
と言っています。

今後人民元は、非常に強力な通貨として
国際金融の檜舞台に鮮烈なデビューを果たすことが
予想されていますが、
このニセ札の問題を抜本的に解決できない限りは、
決済通貨として世界の信頼を勝ち得ることは
絶対にできないのです。


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2007年5月14日(月)

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