第718回
中国政府が人民元への両替を制限するワケ

中国政府は今年2月より
個人の外貨から人民元への両替を
1人年間5万米ドル相当までに制限しました。

それまでは1人1日5千米ドル相当まで両替が可能で、
年間両替額の制限はありませんでしたので、
極端な話、銀行の営業日に毎日両替すれば
年間100万ドル分以上の外貨を
人民元に両替することができました。
しかし、元高をあてこんだ外国人が人民元を大量に購入し、
インフレに拍車をかけることを防ぐために、
今回、こうした制限が設けられたようです。

「外貨を人民元に両替して生活している外国人も、
1人年間5万米ドル相当の人民元があれば
十分生活できるだろう。
それ以上の両替は投機資金とみなす」
ということです。

また、北京市ではこの両替額制限とほぼ同時に
「外国人が北京市内で不動産を購入する場合は、
自宅用の住宅1物件しか購入できないこととする」
という条例が施行されました。
これは外国人の不動産大量購入による
不動産バブルを防ぐための措置ですが、
中国人から名義を借りて買い続ける人が出てくるのは
火を見るより明らかですので、
今回の両替額制限は、不動産購入資金の元を断つ、
という意味もあるのではないでしょうか。

先が読みにくい現代の世の中において、
これだけ方向性がはっきりしている通貨はありません。
エコノミスト100人に
「今後、人民元は高くなりますか、安くなりますか?」
という質問をしたら、
「安くなる」と答える勇気のある人は
いないのではないでしょうか。
人民元は大儲けはできないまでも、
確実に儲けることのできる
数少ない投資対象の一つなのです。

「人民元は確実に高くなる」ということになれば、
海外の投資家は人民元を大量に買い始めます。
毎年5%づつ元高になるとすれば、
日本円の資産を人民元に換えておくだけでも、
年率5%の利回りで運用するのと同じ成果が得られます。
日本の銀行で金利が年率0.5%にも満たない
定期預金に預けておくぐらいなら、
人民元の現金で持っておくほうが
よっぽど有利な資産運用になるのです。

しかし、中国政府としては、
外国人が元高を期待して怒涛のように
人民元を買いに走るような事態は
避けたいと考えています。
なぜなら、ただでさえ未曾有の貿易黒字で
市中に出回る人民元が増え、
インフレを抑えるのに必死になっているのに、
外国人が外貨を大量に人民元に両替すれば、
インフレ圧力を増すことになるからです。

今回の一見非常識とも思える両替額制限の背景には、
中国政府のそんな苦しい事情があるようです。


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2007年5月25日(金)

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