第717回
「民主主義は万能ではない」

私は中国に来るまでは、
どこの国でも西側先進国型の、
執政者を有権者の投票で決める民主主義こそが、
国民を幸せにすると思っていました。
学校の公民の授業でも、そういうふうに教わりました。
しかし、中国に来て中国の現状を見てからは
「民主主義は万能ではない」と思うようになりました。

健全な民主主義国家の運営には、
有権者が個々人の私利私欲を超越し、
長期的な視点から国家の運営を考える
能力が求められます。
減税で自分が得をするなら賛成、
増税で損をするなら反対、
というレベルでは国家は立ち行きません。

今の中国で民主化をして、国民1人に1票を与えれば、
明らかに9億人いると言われる農民の意見が
国家を支配することになります。
こうした農民が自分たちの短期的な利益ばかりを考え
「お金持ちの資産を全て没収して農民に分け与える法」
などという法案を全人代で通してしまえば、
改革開放政策でようやく
高度成長を始めた中国経済は一気に失速し、
中国は「みんなで一緒に貧乏するのだ!」の
文化大革命の時代に逆戻りしてしまいます。

こうした「民主主義国家」対「一党独裁国家」の構図は、
今、日本で盛んに議論されている
「上場企業」対「オーナー企業」の構図に
非常によく似ています。

以前の日本では「オーナー企業」は
コーポレートガバナンスが働かない、ということで、
「上場企業」の方が優れている、
という意見が大勢を占めていました。
しかし、最近になって、
株主が超短期的な利益を求める「上場企業」より、
長期的な視点に立った経営で
最終的には利益を最大化できる
「オーナー企業」の方が優れているのではないか、
という意見も出てきて、
株式を非上場化する企業が増えている、と聞きます。

「一党独裁国家」と言うと、
第二次世界大戦時のナチスドイツを彷彿とさせるためか、
「即ち悪」というイメージがあります。
しかし、ナショナルガバナンスがきちんと働けば、
中国の場合は即ち、「中国共産党」が
共産党員の汚職を自らの手で根絶し、
「為人民服務(うぇいれんみんふーうー、
人民の為に奉仕する)」の政治を徹底できれば、
という大前提の下ではありますが、
「中国共産党」が「オーナー企業」のように
長期的な視点に立って国家運営を行っていくことが、
延いては中国人民の大きな幸せにつながるのではないか、
と私は思います。


←前回記事へ

2007年5月23日(水)

次回記事へ→
過去記事へ
ホーム
最新記事へ