第723回
カネのためなら悪魔にも魂を売る炭鉱老板

私は以前、丸紅で石炭貿易の仕事をしていました。
石炭関係の仕事をしていると、
どうやって掘っているのかを確認するために、
採炭現場を視察する機会が多くなります。

露天掘り炭鉱の視察は、
大きな工事現場のようなものですので、
遠くから見ていればあまり危険はないのですが、
地中奥深く坑道を掘って採炭をしている
坑内掘り炭鉱の視察は、
もぐっている間に坑道の天盤が崩落したり、
地中から湧き出るメタンガスが爆発したりすれば
一発でお陀仏ですので、大変な危険が伴います。

中には「私は今回の視察中に何らかの事故で死んでも、
貴社には一切の損害賠償を請求致しません」
という内容の誓約書にサインをしないと
視察を受け入れてくれない炭鉱もあり、
かなり腰が引けた覚えがあります。

と同時に、そんな危険な坑内に
毎日入らなければならない炭鉱夫という職業は、
事務職の人の10倍ぐらい給料をもらわないと
やってられんな、と思ったものです。

しかし、実際は、中国の炭鉱労働者の給料は
非常に低く抑えられており、
特に、私有の小型炭鉱の労働者は
汚い、きつい、危険の3Kを絵に描いたような
劣悪な環境の中、低賃金で働いています。

中国の炭鉱事故による年間死者数は、
2位のロシアを大きく2ケタ引き離して、
世界ダントツ1位なのですが、
そうした炭鉱事故の大部分は、
安全対策が十分になされていない
私有の小型炭鉱で発生しています。

私の知り合いにもこうした私有小型炭鉱の
老板(らおばん、オーナー経営者)が何人かいますが、
彼らの子女はことごとく、
カナダやオーストラリアなど海外に留学しています。
最初は「金持ちになると、中国の人たちも
教育熱心になるんだなぁ」と思っていたのですが、
いろいろな人の話を総合すると、
どうも、炭鉱事故が起こったときの高飛び先の確保が
本当の目的であるようです。

こういう炭鉱の老板は「安全対策にカネをかけるぐらいなら、
自社の炭鉱夫の命など危険にさらしてもかまわない。
いざとなれば、息子を頼って海外に高飛びするまでだ」
と考えています。
彼らは、カネのためなら悪魔にも魂を売るような
カネの亡者なのです。

こうした事態を憂慮した中国国家安全生産管理監督総局は、
先日、炭鉱経営企業の老板に対して、
「毎月少なくとも10回は坑内にもぐり、作業を指揮すべし」
との指示を出しました。

安全対策をきちんとしなければ自分の命も危ない、
ということになれば、
悪魔に魂を売ったカネの亡者も、
安全対策にカネをかけるようになるのでしょうか。


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2007年6月6日(水)

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