第872回
「中国」と「中華人民共和国」

日本に住んでいる方々からすれば、
中国の民衆の心の中の「中国」と「中華人民共和国」が
100%重なっていない、と言われても、
あまりピンと来ないかもしれません。
日本で愛国と言えば、
その対象となる国は「日本」しかありませんから...。

私もついこの間までは、
中国の民衆の愛国の対象は
「中華人民共和国」だと思っていました。
なぜなら、愛国を叫ぶ民衆は
中国共産党が国旗に定めた「五星紅旗」を振り、
中国共産党が国歌に定めた「義勇軍進行曲」を歌うからです。

しかし、2005年の反日デモや最近の家楽福不買運動の
中国政府の腰の引け方を見ていると、
どうも多くの民衆の心の中には「中国」という
「中華人民共和国」とは必ずしも
100%重なり合わない愛国の対象があって、
その愛国心を阻む者は、
例えそれが中国共産党であっても敵とみなす、
ということになっているような気がしてきます。

そして、中国政府は民衆から
「中国共産党は我々「中国」の代表に非ず」と言われるのを、
極端に恐れているように見えます。

こうしたことから、
中国政府は愛国運動が暴動に発展してしまった場合も、
それを無理に押さえ込めば「愛国心を阻む敵」とみなされ、
民衆の攻撃の対象となってしまうため、
なかなか強硬な態度が取れないのではないでしょうか。

今年から共産党系の祝日である
「労働節」の休みが3日間に短縮され、
その代わりに「清明節」、「端午節」、「中秋節」など
「中国」古来の祝日が法定祝日となりました。
これも、民族意識を発揚して、国民の心の中の
「中国」と「中華人民共和国」が重なり合う部分を、
より大きくするための政策であると言われています。

中国共産党は常に、民衆の「中国」に対する愛国心を
先頭に立って引っ張っていく立場に立ち、
民衆の心の中の「中国」と「中華人民共和国」を
ピッタリと重ね合わせる努力を
続けていかなければなりません。

チベット問題に対する中国政府の対応と、
国際社会の常識との間に乖離が生じるのも、
こうした国情が背景にあるためなのではないか、
と私は思うのです。


←前回記事へ

2008年5月16日(金)

次回記事へ→
過去記事へ
ホーム
最新記事へ