第921回
変化する中国ビジネス、変化しない商習慣

私が1996年に丸紅の駐在員として
北京に赴任した時の主な仕事は、
中国の石炭を日本に輸出することでした。

しかし、2001年に私が石炭の仕事を辞めてから
中国の石炭需要は急増、
私の後任者の仕事は中国の石炭を日本に輸出する仕事から、
オーストラリアやインドネシアの石炭を
中国に輸入する仕事に変わりました。

そして、昨年からは中国は石炭の輸入量が輸出量を上回る、
石炭の純輸入国に転落してしまいました。

ほんの数年で石炭の輸出国が輸入国へ。
今の中国は変化のスピードが速いため、
ボーッとしていつまでも同じ仕事を続けていると、
すぐに時代の変化に取り残されて食えなくなってしまいます。

こんなに変化のスピードが速い中国ビジネスなのに、
いつまで経っても変わらないのが
契約書を全く無視する商習慣です。

最近のニュースによれば、中国では現在、
石炭のスポット契約価格が1ヶ月で20%近く上昇、
1年前と比べると2倍まで上がっています。
このため、以前に安い値段で決めた
長期契約の顧客には石炭を出荷せず、
その分を値段の高いスポットマーケットで
売りさばいてしまう石炭会社が続出しているようです。

そして「一度契約で決めたのだから、
決められた安い値段できちんと石炭を出荷しなさい」
という長期契約の顧客からの要請に対しては
「スポット契約価格が上がっているのに、
そんなことをしたら損をしてしまうじゃないですか。
契約数量を減らすか、もしくはどうしても石炭が欲しければ
値上げに応じるかしなさい」と回答しているようです。

私も丸紅時代、
この無茶苦茶な商習慣に何度泣かされてきたか...。

しかし、中国企業にとってはこれは無茶苦茶でも何でもなく、
会社の利益に忠実に
最も経済合理性の高い選択肢を選んでいるだけなのです。

そこに契約違反という意識はありません。
中国では契約書とは飽くまで契約した時点の状況下で
合意に至った内容を紙にした備忘録程度のものであり、
状況が変われば当然契約の内容も
柔軟に変わってしかるべしなのです。

もちろん、どんなに状況が変化しようと
契約をきっちりと守ってくれる中国企業はたくさんありますし、
その数はどんどん増えています。

こうした中国特有の商習慣に泣かされないためには、
契約をきっちりと守ってくれる中国企業とだけ取引するか、
契約を守ってくれない中国企業と取引しても
契約を反古にされないように、
常に自社を契約相手より強い立場に置くかしかないのです。


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2008年9月8日(月)

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