第922回
「切れやすい」中国人の出現

12年前、私が北京に来た当時、
中国はそれはそれはおおらかな国でした。

人々は並んでいる列に横入りされても文句を言わず、
車を運転している時に他の車に強引に割り込まれても平気な顔。
全てが規律正しい日本から来た私は、
そんなことがある度に一人いらいらといらついていたのですが、
北京に住む期間が長くなるにつれて、
こうした「大陸的おおらかさ」に慣れていきました。

しかし、高度経済成長による経済発展により、
社会のスピードがどんどん速くなってくるに従って、
「大陸的おおらかさ」は姿を消しつつあり、
中国にもちょっとしたことでカッとなる
いわゆる「切れやすい」人が増えている
と思わせるニュースが増えてきました。

昨年10月、遼寧省大連市のある焼肉店で、
客が店員を刺殺するという事件が発生しました。
店員が誤って店の照明を消してしまったことに対し、
その焼肉店で知人と食事をしていた男が激怒。
謝るでもない店員の態度に更に逆上した男は
持っていた刃物で店員を刺し殺してしまいました。

今年5月には、湖北省武漢市の武漢工程大学の寮で
男子学生がルームメイトを刺殺するという事件が起きました。
男子学生はルームメイトに
「お前のくつ下は臭すぎる」と言われていたのですが、
ある日自分のくつ下が窓の外に捨てられているのを見て激怒、
果物ナイフでルームメイトの腹部を刺して殺しました。

6月には、吉林省吉林市のあるレストランで
店主が客を刺殺するという事件が起きました。
タクシー運転手の男性は知人らと3人で
このレストランに食事に来ていたのですが、
トイレから出てきた際に水を流しませんでした。
これに激怒した店主は刃物を持ち出し、
この男性を刺し殺しました。

また、7月には北京市豊台区のレストランで
調理師の男が店主を刃物で刺し大けがを負わせる
という事件が発生しました。
勤務時間中にも関わらず無断で休憩し
タバコを吸っていた調理師を店主が解雇。
これに激怒した調理師が店主を刃物で刺し
大けがを負わせました。

こうして冷静に見ていけば、
一つ一つの事件のきっかけは人を殺すほどのことでもない、
ほんのささいなことです。
しかし、経済成長で格差が広がる中、
普段から蓄積されてきた
社会や会社や自分に対する不満が臨界点に到達、
その不満がちょっとしたきっかけで爆発し、
彼らを殺人という凶行に走らせてしまうのでしょうか。

「切れやすい」中国人の出現は、
経済成長が生んだ負の産物の一つなのかもしれません。


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2008年9月10日(水)

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