第962回
中国政府が恐れる「天誅」ブーム

先月、日本で発生した元厚生事務次官宅連続襲撃事件。
襲撃を受けたのがどちらも年金局長経験者宅だったため、
一時は現在の年金制度に不満を持つ人間による
テロとの見方も広がりました。

しかし、事件の数日後に
警視庁に出頭した犯人が話した襲撃の理由は
「34年前に保健所に殺された犬の仇討ち」。
それも犯人は保健所の所管が厚生労働省ではなく、
都道府県や政令市などの地方自治体であることを知らず、
勝手な思い込みで厚生省を恨み続けていた、
というなんともしまらない結末を迎えました。

今回の事件はテロではありませんでしたが、
この事件の第一報を聞いて最も背筋の凍る思いをしたのは、
中国政府だったのではないでしょうか。

中国では今年7月、男が公安庁舎に押し入り、
警官6人を刺殺するという事件が起きました。
襲撃の理由は男が自転車窃盗容疑で取り調べを受けた際の
警官の対応に不満で警察に恨みを持った、
という私的なものでしたが、事件発生後中国国内では
「この事件は中国の警察権力に対する
民衆の怒りや不満の象徴である」ということで関心を集め、
ネット上では犯人を英雄視する書き込みが絶えず、
犯人の公判の際にも裁判所の前で
支援グループによるデモ行進が行われたそうです。

こうした動きに対して当局は事件発生直後から
犯人の母親を北京市内の病院に強制入院させ
メディアとの接触を絶ち、
最高人民法院(最高裁)は、
一審の死刑判決を支持した二審判決から
わずか1ヶ月で死刑執行を許可、
先月末に異例の速さで犯人の死刑が執行されました。

この事件の犯人の襲撃理由は、
日本の襲撃事件同様私的な恨みによるものでしたが、
もしこれが警察権力の横暴や役人の汚職に対する
「天誅」の形で行われたとしたらどうなるでしょう。
犯人は殺人犯にも関わらず全国的な英雄となり、
中国国内に反政府の動きが広がるきっかけになるかもしれません。

中国政府は日本の元厚生事務次官宅連続襲撃事件にヒントを得た
「天誅」が中国国内でブームになる前に、
自浄作用を働かせ、警察権力の横暴や役人の汚職を
徹底的に排除する必要があるのです。


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2008年12月12日(金)

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