第983回
「HD90」という名のニセ札

最近中国では「HD90」と呼ばれるニセ札が
大きな話題になっています。
今まで見つかったこのニセ札の通し番号が
「HD90」から始まっているものが多いため、
こう呼ばれているようです。

中国に住んでいると
ニセ札をつかまされることは日常茶飯事であり、
私も今まで何枚ニセ札をつかまされたかわかりません。
このため中国の人たちは、
最高額紙幣である100元札(1300円)を受け取る時には、
必ず透かしと手触りを確認し、
スーパーにはブラックライトなどを使った
簡易ニセ札鑑定機が置いてあります。

こんな状態ですので、日本ではニセ札が見つかると
NHKの7時のニュースのトップで報道されたりしますが、
中国では普段はニセ札の発見には何のニュース性もありません。

では、なぜ今回ニセ札「HD90」が
大きな話題となっているのか?

それはこのニセ札が非常に精巧にできており、
透かしや手触りでの確認はおろか、
銀行の本格的なニセ札鑑定機でも
判別できないことがあるからです。

先日、上海の裁判所で
「HD90」を使おうとして逮捕された
広西チワン族自治区出身の34歳の男に
懲役10ヶ月、罰金15000元の判決が出ました。

判決によれば、男は昨年11月9日、
広東省広州市の広州駅近くで
1枚10元(130円)で「HD90」を55枚購入、
その後、職探しのために上海に向かいました。
男は11月13日夜、上海市内の宝石店で
5200元(68000円)余りの金のネックレスを買おうとして
「HD90」52枚とホンモノの100元札1枚を出しました。
そして男の思惑通り、52枚の「HD90」は全て
店のニセ札鑑定機を通りました。

ニセ札を金に換えてしまえば、
後は他の店で堂々と金を換金して、
ホンモノの人民元を受け取るだけです。

しかし、その時、
札の手触りを不審に思った従業員が店長に連絡、
出てきた店長から「この札はどこから持ってきたのですか」
と聞かれた男は慌てて店の外に逃げましたが、
店の警備員に取り押さえられたのだそうです。

この「HD90」、
昨年12月ぐらいまでは広東省周辺で
民工(みんごん、出稼ぎ労働者)に支払われた給料の中から
集中的に見つかりましたが、
景気の減速によるリストラ民工の大量帰郷に加えて、
先週末から始まった春節の休暇で
リストラされていない民工も大量に故郷に帰りましたので、
その被害は今や中国全土に広がっています。

広東省の工場経営者は景気の減速で赤字に陥り、
給料の支払いを1/10にするために、
上海で逮捕された男のように
「HD90」を1枚10元で買ってきて
民工に支給したのでしょう。

上海で逮捕された男も、
広東省の工場経営者も切羽詰っていたのでしょうが、
「ニセ札を買ってでも...」という発想には
大きな問題があります。

買う人がいなければ、作る人も商売にならないはずです。
中国で大量のニセ札が流通する背景には、
今の中国にはいかに「倫理観」や「遵法意識」が
欠如している人が多いか、
ということを表しているのではないでしょうか。


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2009年1月28日(水)

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