第984回
「ニセ札ばば抜き」

中国でニセ札が大量に流通する背景には、
「倫理観」や「遵法意識」が欠如している人が
たくさんいる、ということもありますが、
正直者がバカを見る法律にも問題がありそうです。

中国ではニセ札を発見して銀行や公安に届け出ても、
没収されてしまい何の補償も受けられません。
このため、ニセ札をつかまされても
黙ってどこかで使ってしまおうとする人がほとんどです。

私の友人で北京在住の浅井裕理さんは、
著書「これニセ札でしょ!」(都築事務所)の中で
この状態を「ニセ札ばば抜き」と表現しています。
今の中国では、13億人の人が参加する
「ニセ札ばば抜き」という名の
世界最大のゲームが進行中であり、
ニセ札という「ばば」を
次の人にうまく渡せない人のところには、
どんどん「ばば」が溜まってしまうのです。

今回も、こうした理由から
公安に寄せられる情報は少なく捜査は難航、
既に中国全土でかなりの数の「HD90」が
流通し始めていると見られています。

「HD90」で始まるお札にはホンモノもあるようなのですが、
「HD90」のニュースがテレビや新聞で大々的に報道されたため、
人々は100元札を受け取るときに
透かしと手触りを確認するだけでなく、
お札の通し番号が「HD90」でないか確認するようになりました。

しかし、この精巧なニセ札には通し番号が
「HB」や「FA」で始まるものもあることが明らかになり、
100元札自体の受け取りを拒否する
商店やタクシーの運転手も出てきているようで、
混乱の度合いは深まっています。

今まで通りニセ札は届け出ても没収ということでは、
届け出る人がおらずニセ札が大量に
流通することになってしまいます。
しかし、かと言って届けられたニセ札を
ホンモノと交換することにすれば、
ニセ札製造業者を利することになってしまい、
それこそ犯人の思う壺です。

精巧なニセ札「HD90」の出現は、
中国政府にとっては非常に頭の痛い問題なのです。


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2009年1月30日(金)

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