第1009回
中国政府と日本政府の危機感の違い

世界的な金融危機による景気の減速で、
中国ではたくさんの企業が倒産をしたり、
労働者をリストラしたりしています。
その結果、仕事を失った
農民工(のんみんごん、出稼ぎ労働者)は
2000万人にのぼると言われています。

当社も最近、
数名の地方出身者を新たに正社員として雇用し、
本当に微力ながら中国の雇用問題解決のために
貢献しているのですが、
沿海部の各企業がそうした努力をしても焼け石に水、
2000万人もの失業者の
就職先を作り出すことは到底できません。

このため、失業した農民工は仕方なく
それぞれの故郷に帰るのですが、
輸出激減の影響が少ない内陸部は沿海部に比べれば
まだ景気の落ち込みが小さいとは言われているものの、
そんなにたくさんの仕事が突然生まれるわけもなく、
食えなくなった失業者たちが暴動を起こし、
国家の安定が損なわれる危険が高まっています。

国家の安定が損なわれることを最も恐れている中国政府は、
金融、財政、税制などありとあらゆる手段を使って、
これでもかと言うぐらい矢継ぎ早に金融危機対策を打ち出し、
「保八(ばおぱー、8%成長確保)」によって
失業者の増加を食い止めようとしています。

昨年9月のリーマンショック以降、
この半年で中国政府が打ち出した金融危機対策は、
・利下げ5回(貸出基準金利下げ幅の累計は2.16%)
・2年間で総額4兆元(57兆円)規模の景気刺激策
・金融支援(中小企業への融資拡大など)
・不動産市場てこ入れ(住宅確保支援など)
・社会保障支援(社会保険料の支払い猶予など)
・消費拡大(農村の家電普及補助金など)
・貿易促進(輸出税還付率の引き上げなど)
・雇用対策(農民工、大卒者への支援など)
・国内10産業の産業振興計画
などなど、
一党独裁政権の利点を生かした、
スピーディーな対策が打たれています。

こうした対策により、中国では早くも
鉱工業生産の伸び率が回復、
電力使用量の減少率は縮小、
金融機関の貸し出しも急増するなどの
景気回復の兆しが見え始めており、
温家宝首相も「景気刺激策の効果が表れ始めた」
とコメントしています。

すったもんだの挙げ句、
ようやく最近になって一部の地方で
定額給付金を配り始めた日本とは
対策のスピードに大きな違いがあります。
この分でいくと、
世界で一番早く金融危機の影響から脱却できるのは、
日本ではなく中国になりそうです。

中国政府がこれだけ必死になって金融危機対策をするのも、
全ては国家の安定のためです。
中国の安定が損なわれれば、中国国内だけでなく、
地球全体に今回の金融危機など比較にならない、
取り返しのつかない災厄を与える可能性もあります。

中国政府と日本政府の金融危機対策の必死さの違いは、
金融危機に対する危機感の度合いが
全く違うからなのではないか、と私は思います。


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2009年3月30日(月)

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