第1013回
北京でフランス料理が流行らないワケ

北京にはいくつものフランス料理店がありますが、
予約が取れないぐらい流行っている店
というのは聞いたことがありません。
フランス料理の名店・マキシム・ド・パリの北京店は、
開店して既に25年になりますが、
お客さんがたくさん入っているようには見えません。

フランス料理が北京で不人気な理由は、
ひとえにその料理の量の少なさに
あるのではないかと思います。

以前、私が丸紅の北京支店で石炭の仕事をしていた時に、
日中石炭会議という日中の石炭関係者が
一堂に集まる国際会議が沖縄で開かれたことがありました。
私もその会議に出席するために中国の石炭関係者と一緒に、
まずは福岡に入ったのですが、
1日目に日本側の主催者が歓迎宴として用意したのは、
宿泊するホテルのレストランでの
フランス料理のフルコースディナーでした。

日中双方のエラい人たちの挨拶も終わり、
歓迎宴は順調に進んでいるかのように見えたのですが、
デザートが出てきた頃から
中国側の参加者がざわざわと騒ぎ始めました。
何を騒いでいるのか良く聞いてみると、みんな口々に
「今日の食事はこれっぽっちでもう終わりか」、
「オレはまだ腹いっぱいになってない」などと言っています。

中には怒って途中退席する人まで出て、日本側のスタッフが
「食事の量が少なくて申し訳ありません。
この近くに長浜というラーメンの名所がありますので、
そこで食べなおしましょう」と追いすがるのですが、
「もういい!部屋に帰って寝る!」と取り合ってくれません。

私はこの様子を見て
「大の大人が食事の量が少なかったからと言って
あんなに怒るなんて大人気ない」と思ったのですが、
その後の北京在住で中国の人たちの
「食」に対する並々ならぬ情熱を感じる場面に何度も遭遇し、
今では「中国側の参加者が怒ったのも無理ないな」
と思うようになりました。

この過ちはフランス料理だけではなく、
日本料理の高級懐石料理などでも発生します。
日本人にとっては
「おいしいものを少しずつ」が最高のおもてなしですが、
中国人は「おいしいものを腹いっぱい」でなければ
歓迎されているとは思えないのです。

北京でフランス料理が流行らないワケは、
その辺にあるのではないかと私は思っています。


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2009年4月8日(水)

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