第1042回
インドの総選挙に見る中国の民主化

先日、NHKスペシャルの
「インドの衝撃−世界最大の選挙戦、貧困層が国を動かす」
という番組を見ました。

インドは有権者数7億1000万人を擁する
世界最大の民主主義国。
そのインドで今年4月に行われた総選挙を
取材したのがこの番組です。
この選挙戦最大の焦点は、
インド社会の圧倒的多数を占める貧困層票の動向でした。

インドの二大政党である国民会議派とインド人民党が
いずれも過半数を取れないと予想される中、
カースト最下層のダリッドを支持基盤とする
大衆社会党が勢力を増し
キャスティングボートを握るかに見えたのですが、
結局は人口の20%に満たないダリッドの支持しか得られず、
幅広いカーストの貧困層の支持を集めた
国民会議派の圧勝に終わった、というあらすじです。

私は中国が民主化するとすれば、
中国とほぼ同等の12億人の人口を持ち、
且つ、国民の大多数が貧困層であることも
中国と似ている民主主義国家・インドが
モデルケースになるのではないかと思っていますので、
この番組は非常に興味深く見させて頂きました。

この番組を見終わった後、私が至った結論は
「やはり当面、中国に民主主義は必要ない」
というものです。

またこんなことを言うと
「おまえは中国共産党の手先か」とか、
「民主主義を否定するなんて信じられない」
などと言われそうですが、
この番組で見たインドの総選挙は
それはそれはお粗末なものでした。

まず、ダリッドの人たちの多くは
字の読み書きができませんので、
投票も支持する政党のマークが書いてあるボタンを押す、
という形で行われます。
このため、大衆社会党の選挙ボランティアは
ダリッドの人たちの家を一軒一軒回って
「選挙の日は投票所に行ってゾウさんのボタンを押すんですよ。
そうすれば生活が楽になりますからね」と言って歩くのです。

そして、インド最強の女と異名をとる、
大衆社会党のマヤワティ党首が
ヘリコプターでダリッドの支持者が集まる会場に降り立ち、
演説でダリッドの人たちの利益になるような
甘い公約について次々と話していくのです。

もちろん、貧困層を救済するのも
国家の非常に重要な政策の1つですが、
逆に言えば政策の1つに過ぎません。
外交、財政、産業振興など
その他の重要な政策について何一つ知らず、
「何しろオレのポケットにおカネを入れてくれる人に投票する」
という投票行動を取る人たちに選ばれた代表が、
国の将来を誤るような政治をすることはないのでしょうか。

バーナード・ショー曰く、
「民主主義とは腐敗した少数の権力者を任命する代わりに、
無能な多数者が選挙によって無能な人を選出することである」。

特に、インドや中国のような
国民の圧倒的多数が教育されていない
貧困層である発展途上国にとって、
民主主義の導入は大きなリスクとなるのではないか。
私はこの番組を見ながらそんなふうに感じました。


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2009年6月15日(月)

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