第1053回
信号が信用できない国・中国

中国の人たちが信号を守らないのは、
彼らが持つ「並ばない遺伝子」のためだけとは言えません。
中国の信号の中には信用ができない信号があるところにも、
問題があるように思います。

私のオフィスの近くに
「燕莎橋(いぇんしゃーちゃお)」という
大きな交差点があります。
この交差点の歩行者用信号は青の時間が短く、
赤信号を信用しておとなしく待っていると
交差点の斜向かいに行くまでに
5分以上かかってしまったりするのです。

更に、青信号だからといって油断はできません。
歩行者用信号が青であるにも関わらず、
右から左からたくさんの車が走ってきますので、
左右を良く見て注意して渡らなければなりません。
その車は信号無視をしているわけではなく、
信号の設定自体に欠陥があるのです。

こんな信用のできない信号ですので、
信号が赤でも車が来なければ気をつけながら渡ってしまおう、
という人が出てくるのは無理もないことです。
「燕莎橋」の歩行者用信号は赤だろうが青だろうが
「車が来れば渡らない、車が来なければ気をつけて渡る」
という気持ちにさせるような信号なのです。

信号に限らず既存の社会システムを
ほとんど信用していない中国の人たちは、
概して自立心が旺盛で、自己責任の意識が強いです。

今回の金融危機による景気の後退で、
日本では「派遣切り」に遭った人たちがNPOの助けを借りて
政府の救済策の更なる充実を求めています。
しかし、同様に失業した中国の「農民工(のんみんごん)」は、
政府に何かを求めてもどうせ無駄であり、
頼れるのは自分だけだ、ということで、
故郷に帰って起業をする人が増えているそうです。

起業は日本では資金に比較的余裕のある人が
やることのように捉えられていますが、
中国の農村では、日本の戦後の闇市のように、
政府にも企業にも頼れない農民が食っていくために
自分で仕事を創り出さなければならないところまで
追い詰められてやる最後の手段なのです。

私は信号を始めとする社会システムが信用できる
日本という国はすばらしい国だと思います。
しかし、国がすばらしすぎるおかげで、
日本人の自立心や自己責任の意識はどんどん弱まり、
自分の頭で考えない、判断しない
思考停止の状態に陥っている人が増えているのも
また事実だと思います。

信号が信用できない中国はイヤな国ではありますが、
「信号が赤だろうが青だろうが、車が来なければ気をつけて渡る」
という中国の人たちの自立心、自己責任の意識には
私たち日本人が学ぶべきところもあるのではないか、
と私は思います。


←前回記事へ

2009年7月10日(金)

次回記事へ→
過去記事へ
ホーム
最新記事へ