第1061回
ウイグル問題で世界中を敵に回す中国

先日中国で発生したウイグル暴動は、
その影響が海外にも広がっています。

まずトルコのエルドアン首相が、
ウイグル暴動でウイグル族に多数の死者が出たことを受け、
「中国での事件は大虐殺だ」と中国政府を強く非難しました。

現在の新疆ウイグル自治区の一帯が
東トルキスタンと呼ばれている通り、
ウイグル族は民族的にも言語的にも
トルコ人と非常に近い関係にあります。
このため、トルコ国内では
「中国当局が同胞に対する虐殺行為を働いた」
という怒りが広がっており、
トルコ政府の閣僚からも中国製品をボイコットすべきだ、
との声が出ているそうです。

また、ウイグル族の多くはイスラム教徒です。
中国当局が暴動後、金曜礼拝を中止させるといった、
信心深いイスラム教徒にとっては
受け入れがたい措置を取ったこともあり、
反中感情はトルコ以外のイスラム社会にも
広がる可能性が出てきています。

そんな中、先日、国際テロ集団アルカイダ系で
アルジェリアに拠点を置く
「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ」と名乗る組織が、
ウイグル暴動でイスラム教徒に多数の死者が出た報復として、
アフリカ北西部で働く中国人を攻撃対象にする、
との宣言をしました。

しかし、この動きに対して、
亡命ウイグル人組織「世界ウイグル会議」は、
「暴力はいかなる問題の解決手段にもならない。
国際テロリストは自分たちの活動のために、
ウイグル人の正当な願望や
東トルキスタンで最近起きた悲劇を利用すべきではない」
として、強く反対する姿勢を示しました。

この一方で「世界ウイグル会議」は
チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世に書簡を送り、
同じ中国植民地主義の犠牲者として、
反中国政府活動への支援を求めました。

こうして見ていくと、ウイグル人組織は、
トルコとは民族のつながりで、
イスラム社会とは宗教のつながりで、
亡命チベット人とは亡国の民つながりで
それぞれ支援を取り付け、
テロ組織とは一線を画して平和的な手段で
反中包囲網を作っていこうとしているように見えます。

これに対し中国政府は
「今回の暴動は反動勢力による暴力事件で、
民族、宗教、人権の問題ではない」として
火消しに躍起になっていますが、
世界はそうは見てくれません。

今後、へたをすると、今回の暴動をきっかけとして、
普段から中国を快く思っていない世界中の国や勢力が、
「反中国」というキーワードで結束して、
反中包囲網を作っていく可能性も否めません。

ウイグル問題は一見中国の内政問題のように見えますが、
実際は中国が世界中の国を敵に回す原因にもなりかねない
外交上の大きな爆弾なのです。


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2009年7月29日(水)

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