第1083回
本屋で座り読みをする人たち

私は本屋が大好きです。

普段は北京に住んでいますので、
オンライン書店を利用していますが、
日本に帰る機会があると必ず本屋に寄ります。
本屋に行けば、日本人が今、何に興味を持っているのか
ざっと一覧することができますし、
いつも自分が読んでいる本のジャンルとは違う本に
出会うチャンスもあるからです。

そんな本屋好きの私は、初めて北京に来たときにも、
早速、本屋に行ってみたのですが、
その時の衝撃は今でも忘れられません。
本屋の床全体に、
あぐらをかいて本を読む人がびっしりと座っており、
足の踏み場もなかったのです。

中国の本は非常に安いです。
例えば、中国でも圧倒的な人気を誇る
村上春樹(つんしゃんちゅんしゅー)の本。
「舞!舞!舞!(うー!うー!うー!、
ダンス・ダンス・ダンス)」は25元(350円)、
「挪威的森林(ぬおうぇいだせんりん、
ノルウェイの森)」は23元(322円)です。

日本では「ダンス・ダンス・ダンス」の
単行本が上下刊合わせて3570円、
「ノルウェイの森」の単行本は
上下刊合わせて2730円ですので、
日本の物価は北京の4倍ぐらいであることを考慮しても、
中国の本の値段は日本で単行本を買う半額以下の感覚です。

しかし、それでも本屋で立ち読みならぬ、
座り読みをする人は今でもたくさんいます。
「20元ちょっとのものなんだから、
買って帰って家でゆっくり読めばいいじゃないか」
とも思うのですが、本屋はエアコンが効いていますし、
階段のところに陣取ることができれば
そこそこ快適にタダで本を読むことができます。
中国の本屋はカネのかからない
庶民の娯楽の場の一つとなっているのです。

最近、日本の本屋の中には、
わざわざお店の中に座席を設けて、
座り読みを奨励しているところもあるようですが、
中国でそんなことをしたら、図書館代わりに
1日中店内に座って本を読む人ばかりになり、
商売上がったりになることは火を見るより明らかです。

床一面に広がる座り読みをする人たちに対して、
中国の本屋の店員さんはややこしいことに関わりたくないのか
見て見ぬふりを決め込んでいますが、
これだけ本を買う人が少ないと
本屋の経営もかなり苦しいのではないかと思います。

しかし、「検閲を通った本を人民に広く読ませ、
思想を統一すると同時に知識や教養を高める」
という観点から見れば、中国政府にとっては
本屋でたくさんの人が座り読みをして本に接してくれることは
あながち悪いことではないのかもしれません。


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2009年9月18日(金)

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