第1176回
中国政府が強力な不動産価格抑制政策を打ち出せないワケ

北京の不動産業界では、
不動産価格はものすごい勢いで上がっていますが、
賃貸価格はそれほど上がらないか、
逆に下がる傾向にあります。
これは、北京では家を買いたい人はいくらでもいますが、
家を借りたい人は数が限られているためです。

毎月、1万元(13万円)前後の家賃を払える人は、
通常、マンションを買えるだけの
資産や収入を持っていますので、
こうしたマンションを借りる人は、
いずれは北京を離れるつもりの
外国企業の駐在員などに限られます。
このため、北京ではマンションの販売価格と
賃貸価格の差がどんどん広がり、
毎月の家賃収入では銀行の住宅ローンの金利さえも
カバーできない状態になってしまいました。

こうした状況ですから、
北京でマンションを買う人の目的は、
毎月の家賃収入のようなインカムゲインではなく、
多くの場合は、値上がり益である
キャピタルゲインのみに絞られています。
今や、北京のマンションは
人が住めるかどうかはもはやどうでもよく、
値上がり狙いの投機家が博打をするための、
カジノのチップのような記号的な存在に
なってしまったのです。

今のところ、
中国の不動産は値上がりを続けていますので、
早くマンションを買った人ほど、
大きなキャピタルゲインを得ています。
私たち日本人はバブルの崩壊を経験していますので
「不動産価格は下がることもある」
ということを知っていますが、
今の中国の多くの人たちは、
「不動産価格は右肩上がりに上がるものだ」
と思っていますので、
何しろ早くマンションを手に入れることに
血道を上げています。
このため、将来の値上がりを見込んで、
親類縁者や友達からカネをかき集めたり、
かなり無理なローンを組んでマンションを買っている
一般庶民もたくさんいるようです。

不動産価格が既に一般庶民には手が届かない
異常なところまで上がってしまっていることは、
中国政府も大きな問題であると既に認識しています。
不動産市場の加熱を抑えるためには、
製造業にも大きな影響を与えてしまうような、
人民元の切り上げや利上げなどをしなくても、
不動産投機に的を絞ったピンポイントの
税制や資金貸し出し規制を行えば良いことも
良くわかっていると思います。

しかし、あまりに急激に
不動産価格が下がるような政策を打ち出すと、
借金が払えなくなって
人生が終わってしまう人が大量に出て、
逆に社会が不安定になってしまう可能性もあります。
こうしたことも、中国政府が不動産価格抑制に
なかなか強力な政策を打ち出すことができない
理由の1つなのではないか、と私は思います。


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2010年4月23日(金)

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